スバル・インプレッサ

公開 : 2016.10.13 02:50

新プラットフォーム、開発者のこぼれ話

スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)。日ごろクルマの情報媒体を見るような人なら、この言葉をもう覚えておかなければならない。この先2025年までを見越してスバルが開発した新プラットフォームは、今後全車種に適用され、ハイブリッドやEVにも対応させるというまさに同社の屋台骨なのである。

つい先日、新型と先代インプレッサを比較試乗したとき、走り出して10mで「静かになったなー」とおもわず口にしてしまった。従来のスバルの乗り味と言えば、脚まわりがバタつく等どこか野暮ったい印象もあったけれど、SGPでは細かな振動がよく抑えられている。

スバル史上最高レベルという新プラットフォームは、車体・シャシー各部の剛性を現行比1.7〜2倍に高め、操舵時の無駄な挙動を抑え、路面に吸い付くような直進安定性を実現しているのだ。

ステアリング・ギア比を13:1にした逸話は泣かされる。スバルのスポーティ・モデルは通常15:1、普通のセダンで16から17:1である。それにもかかわらず、このクルマの実験部隊とプロジェクト・ジェネラルマネージャーは真っすぐ走るためにはステアリング・ギア比を小さくすべき(=遅れを小さくする)と考え、関係者を説得にあたった。しかし、「 “13:1ではBRZと一緒だ。お前ら、なに考えてんだ” と2時間くらい怒られました(阿部一博PGM)」と賛同を得られない。それに、従来のプラットフォームではギア比を小さくすると危険回避の際にスピンしてしまう例もあった。

ところがSGPではスピンをしない。「ギア比を小さくすると、実は動きがおだやかになる」という考え方については、最終プロトタイプに試乗してもらうと誰も文句を言わなくなったという。

これはフレームワークの一新、スポット溶接・接着剤接合を併用したウェルドボンドの採用、プラットフォームと上屋の結合・リアフレームとサイドシルの構造見直し、重心高の5mmダウンなど新設計の効果が現れたところである。

リアのスタビライザーを車体付け

しかし本当のところは、実験と企画と設計が納得いくまで意見を闘わせるスバルならではの “お国柄” が実を結んだ、というのが正しい表現ではないか?

リアのスタビライザーを車体につける(写真の紫色の箇所)というのも、当初の商品企画には入っていなかった。しかし試作を作り込むうちに、望んだ動きを出すには見送るわけにはいかなくなった。

「リア・スタビライザーをサスペンション・アッセンブリーにつければ、モジュール化できてネジ4本で取り付けられます。非常に合理的ですね。でも、それを車体に取り付けるとなると生産工程から見直さなければならない」と振り返るのは車両研究実験第一部の藤貫哲郎部長だ。

こちらも関連部署を何時間もかけて説得するが、首を縦にふってもらえない。そもそも他のメーカーでは絶対にさける手法だから無理もない。

粘りに粘って最後は試作車に乗ってもらい「こんなに変わるのなら」と理解を得られたことで、“曲がるけれどグリップするプラットフォーム” を手に入れた。ロールは従来型と比べて、なんと半減である。

サスペンションは前がストラット、後ろがダブルウィッシュボーン。ブレーキはキャリパーを新開発し、踏みはじめの無効ストロークを短縮している。これによりドライバーの望む減速度の立ち上がりと、剛性感のあるフィーリングを実現した。

車重は1300〜1350kg、AWD仕様はこれに50〜60kgプラスとなる。

また、レヴォーグなどに採用されているアクティブ・トルクベクタリングが「S」に標準装備された。新旧インプレッサでコーナリングを比較すると、新型は自分の視線の先にクルマが進もうとするのを体感できるはずだ。


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