レトロモビル2019を取材 世界最大のインドア・クラシックカー・イベント

2019.2.6-10

世界最大のクラシックカー・イベントとして人気のレトロモビル。メーカーから様々なスペシャルショップまで、広大な会場を埋め尽くし、今年は13万2000人が来場しました。そこで見つけた貴重なクルマたちをご紹介しましょう。

text & photo:Kunio Okada(岡田邦雄)

今年もレトロモビルは大盛況

44回目を迎えたレトロモビル。そのスタートした年に生まれたクルマだって、もはやクラシックカーと呼ばれても良いくらいの歳月に渡って開催されてきたわけで、レトロモビル自体に歴史の重みがある。もっとも1976年から44年を差し引いた1932年ならばポスト・ヴィンテージのクルマとして立派なクラシックカーだが、2019年から44年を引いた1976年ごろのクルマといえば、まだまだ中古車の部類でもあるように見えてしまうのは何故なんだろう。もちろん、それはそれで評価されるようになってきているが。

リプロダクションの新たな流れ

メインの会場となるホール1では、エンスー向けのクルマばかりではなく、最近の高騰したクラシックカー市況を反映して、イギリスやドイツの高級クラシックカー・ディーラーたちが権勢を競い合うかのように大きなブースを出して幅を利かせている。そこでは英国仕立てのスーツを着こなしたハンサムで背の高いセールスマンたちが、富裕層の顧客しか相手にしない様子でフェラーリ275GTBやアストンマーティンDB5など人気の高いスポーツカーたちを並べている。しかしながらそれらに加えて、ル・マン・クラシックに出場可能なレーシングカーを並べているのが、さすがにレトロモビルならではのことだ。

さりげなくポルシェ917のルマン・ウィニングカーが展示されていたが、よくよく見たらレプリカだった。細かなディテールに至るまで、本物と見紛うばかりに出来ている。クラシックカー・マーケットの拡大に合わせて、精巧なレプリカの需要も増してきているのだろうか? また、オリジナル部品も入手困難になる運命にあるゆえに、部品のリプロダクションも多いどころか、戦前のアルファ・ロメオのエンジンやシャシーだって、まるごと新造してしまう連中さえいて、ブースを出して堂々とPRしていた。走り屋向けや、新車のようなコンディションのクラシックカーが欲しいという需要もあり、そのレストアラーもビジネスチャンスを狙っている。

そうかと思えば、オークション情報で既報したように、1966年のル・マンを走ってから、そのままの状態で秘蔵されてきたセレニッシマが突然、レトロモビルのオークション会場に現れて注目を集めていた。予想落札価格よりずいぶんと落札価格は跳ね上がったが、そういう評価はこの場合は好ましく思われた。なによりセレニッシマは、マセラティ・ティーポ63バードケージや、ジオット・ビッザリーニに特別に開発させたフェラーリ250GTブレッドバンなどでレース活動をしていたイタリアの名門チームであり、やがて独自のレーシングカーとスポーツカーの開発に乗り出したのだった。その貴族の遊びのようなモータースポーツへの関わり方は、その後は絶えて無くなった貴重なスピリットであるからだ。

WMのル・マンカーを発見

ル・マンといえば、私が嬉しく思ったのはWMが2台並んで展示されていたことだ。1976年からル・マンに挑戦を始めたWMは、プジョーの技術者ジェラール・ウォルターとミシェル・ムニエによってプジョー生産車のV6エンジンをチューンして搭載。1980年には総合4位を獲得したため、オール・フランス・チームとして総合優勝を期待されたか、1981年にはル・マンのオフィシャル・ポスターの単独主役に抜擢。しかし、今回展示されたゼッケン4番が13位で終わる。1986年にも14位で完走しているが、それでも遥かに巨額の予算でル・マンに挑んだ日産トヨタマツダより上位の成績である。

1988年にはユーノディエールでの405km/hというル・マン史上最高となる速度を記録したことでも有名で、それゆえに単なる直線番長のように評価されがちだが、そうではなく、11時間目まではちゃんと走っていたのである。翌1989年にだって20時間目に事故でリタイアするまでは走っていたのだから。

プジョー・ワークス・チームが1991年からル・マンに挑戦して、たった2年目の1992年に優勝を獲得したのもWMの活動があったおかげではないだろうか。こんなル・マンの歴史の断片を垣間見ることができるのも、レトロモビルの醍醐味だろう。優勝車ばかりがル・マンの歴史ではないことを教えてくれる。

スペシャル・ボディのDSが多種展示

レーシングカーばかりか、古今東西のあらゆる自動車を見聞できるのがレトロモビルの広大さであるが、今年はとくにシトロエンが自社の90周年を誇示する展示を行った。19世紀という自動車の黎明期から活動を始めたルノーやプジョーなどに比べて、シトロエンは後発のメーカーで、最初はフランスにおけるフォードのような大量生産車をもくろんだのが、いつしか個性的なフランス車のなかでも、とりわけアヴァンギャルドな存在と目されるようになった。今回はそんなシトロエンの前衛性を証明するような実験車やコンセプトカーが展示された。

また戦前からの歴史を持つカロシェ(フランスのボディ専門製作工房の呼び名)であるアンリ・シャプロンによるスペシャル・ボディのDSが多種展示されたのも見ものであった。シャプロンはDSをベースにドゴール大統領専用の巨大なリムジーンや、デカポタブル(カブリオレ)の生産もシトロエンの正式なカタログ・モデルとして生産を請け負っていたが、またDSに独自のデザインを施したモデルも生み出していた。
以前はフラミニオ・ベルトーニのオリジナル・デザインを超えるものではないとタカをくくって見ていたものだが、なかなかどうして、戦前からのフランスの高級車の優雅なラインを持ち、独特の魅力を放っていた。

レトロモビルについてはいくらスペースがあっても語りきれない。実際、私は4日間通ったけれど、それでもすべてを見尽くした、とはとても言えないほどなのであるのだから。アウトプットする以上にインプットされる情報や感動のほうが遥かに広大で深淵なのがレトロモビルなのだ。自動車の歴史と文化をつくづく感じるが、ここにいるとまた自動車の未来への信頼も育まれるのである。

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