レトロモビル2019を取材　世界最大のインドア・クラシックカー・イベント

公開 : 2019.03.03 11:50　　更新 : 2021.03.05 21:42

世界最大のクラシックカー・イベントとして人気のレトロモビル。メーカーから様々なスペシャルショップまで、広大な会場を埋め尽くし、今年は13万2000人が来場しました。そこで見つけた貴重なクルマたちをご紹介しましょう。

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ル・マン自動車博物館は、1949年の第17回目、戦後最初のル・マン24時間の優勝車フェラーリ166MMと、善戦したがリタイアに終わったDBシトロエンを持ち込んだ。

主に戦前のアルファ・ロメオのレストアで有名なジム・ストークも御大自らも店頭に立ち（後ろの口髭の男）、レストアばかりか、リクリエーションを高らかに宣言。

こちらもまたフランスのカロシェならではのデカダンスの雰囲気に充ちた妖しい魅力を放つシトロエンDS。

WMプジョーP79/80, 1981年のル・マン24時間を走りきり、13位で完走。同年に日本から参加したマツダや童夢は全車リタイアだった。

WMは一貫してプジョー生産車のV6エンジンを搭載し、1988年にはP88がレース中に405km/hの最高速度を記録したがリタイア。

P88は空力的にも煮詰められ、このアクリルに収納されたバックミラーのアイデアは、プジョー905ではさらに洗練、先鋭化された。

シトロエンと同じくヴォアザンも第１時世界大戦後に飛行機から自動車メーカーに転身した。これは1927年にモンレリーで数々の国際速度記録を樹立したヴォアザン8気筒。

ガブリエル・ヴォアザンは第2次世界大戦後になると一人でアトリエにこもって、究極的な経済車の開発に取り組んでいた。軽量でシンプルな構造を持ち、スペインで生産された。

ヴォアザン出身の技術者アンドレ・ルフェーブルによってトラクション・アヴァンも2CVもDSも生み出された。これは軽量で空力を煮詰めた究極の2CVだ。

このC10はルフェーブルの最後の試作車の1台だが、1923年のACFグランプリに登場したヴォアザンの実験的GPカーと響き合うエスプリを持つようだ。

1970年のパリ自動車ショーで初めて公開された新世代のシトロエンGSをベースにベルトーネ／ガンディーニがクリーンで美しいデザインを創造したのがカマルグ。

グランパレのようにパリに今も多く残る19世紀のガラスと鉄骨の建築のようなウィンドウ処理が最大の特徴だが、ブレイク（ワゴン）的実用性もあるのだろう。

これまたベルトーネ的であるがシトロエン独自のデザインであるというカリン。まるで一体成型されたようなボディは発表当時に物議を醸したに違いない。

ピラミッド的だが、純粋に造形美を追求したクルマがあってもいいじゃないか！　どんな現代美術よりも美しい。しかも決して走れないデザインではないのだ。

アンリ・シャプロンの優れた造形力とセンスの素晴らしさをつくづくと感じさせてくれた蠱惑的な1台。

クーペ・ル・ルマンと名付けられ、1966年から1973年の間に27台が作られた。これは1967年型。

クーペ・ル・パリと呼ばれ、1960年に9台のみ生産。このクーペにふさわしいのはどんな男だろう。

こちらはクーペ・ル・ダンディ、49台のみ製造。シャプロンとしてはスポーティーな趣がある。

デカボタブル・ラ・クロワゼットは52台を製造。若干の装飾を除けば、カタログ・モデルに近い。

電気自動車の歴史は内燃機関のガソリン車よりも古いが、プジョーはガソリンが入手困難となった戦時中にも電気自動車VLVを生産した。30km/h程度の巡行速度で航続距離は70?80kmを達成した。

全長2.67m車重360kgの2人乗り。ボンネットの下の4個の12Vバッテリーは48V 82Aの容量で、33cmという狭いトレッドの2輪の間に配置したモーターで走行する。リヤサスはモーターごとスィングするタイプ。

VLVは1941年に377台が販売されたという。そのミニカーもあり、当時でもこんなに各色用意されたのだろうか？　日本にもフジ・キャビンという一つ目小僧があったが、フランスのそれはなかなかおしゃれだ。

戦後のある時期は、ピニンファリーナがプジョーのデザインを一手に引き受けていた。その時代のプジョーが一番美しく魅力的。

204にはクーペやカブリオレも用意されたが、今の目からは、いっそうエレガントで素敵。トム・ジャーダ的テール・デザイン。

今回のレトロモビルの呼び物のひとつは史上最大のクルマといわれるベルリエT100トラックの展示だ。会場に運び込むのもニュースになるほどの話題となった。

ルノーは、1979年のJ・P・ジャブイーユのF1マシンRS10 を先頭にターボをテーマにしていたが、ただ並べただけで強いアピールもなく控えめな印象だった。

ブガッティの展示はいつでも玉石混交で、しかも第1次世界大戦前後までは未だ分からない謎も多い。これはエットーレ・ブガッティがミラノのプリネッティ・エ・ストゥッキでの16歳の修行時代に製作したツイン・エンジンの3輪車。

ミステリアスなブガッティ。1912年のモンヴァントゥーでエットーレが走った5Lモデルに近い姿だが、イタリアのディアットのために開発された航空機エンジンAvio8Cが搭載されて、後のロワイヤルの源流になったブガッティと言われる。

ベデリアは黎明期の自動車のなかでもシンプルな構造を持つサイクルカーのメーカーだった。これはごく初期の1908年型。

初期は単気筒だが、こちらの1912年型ではV2気筒で3段変速。前後タンデムで、しかも後が運転席というのが特徴。

今回のオークションで注目されたセレニッシマ・スパイダーは、1966年のル・マンにゼッケン24番で出走。5時間でリタイアに終わった。

1974年のル・マンにルイジ・キネッティ率いるNARTからエントリーされたディーノ308GT4 LMは4時間でギヤトラブルでリタイア。

ポルシェ908スパイダーの空力的改良型は『ひらめ』というあだ名が付けられた。1969年のル・マンではロングテール版にエースのシファートが乗り優勝候補だったがリタイア。これは1970年にマルティニ・チームで活躍。タルガ・フローリオではジェラール・ラルースがトップに立ったがコースアウトし下位に落ちた。

イギリス・フォードの計画に基づきコルチナで活躍したアラン・マン・レーシングで製作されたフォードP68は、デビューレースではブルース・マクラーレンの操縦で大いなるポテンシャルの高さを見せ、トップを走ったがリタイア。その後、開発が予定どおり進まないまま消え去った不運のスポーツカーだ。

スイス・チューリッヒの大手クラシックカー・ディーラーであるルーカス・ユニは戦前戦後の魅力的なランチアを集めた。ヴィットリオ・ヤーノを擁したランチアはスポーツカーレースとF1へ進軍した。このD23はD20のスパイダー版で改良型D24が1954年のミッレミリアを制覇した。

ランチアD50は設計者ヤーノとともにフェラーリに譲られて1956年のF1タイトルを奪還した。一方ランチア・ストラトスはディーノV6を得てラリー選手権を制覇した。カログで用意された5色のストラトスが全色揃って並べられ、アリタリア・カラーのワークスカーも勿論展示された。

ミウラはランボルギーニのクラシックとしては最も人気が高い、これはベルトーネによって1台だけ製作されたロードスターで、1968年のブリュッセルで発表後、アメリカの亜鉛販売企業が購入して亜鉛メッキを多用したZn・75に改造されて、宣伝材料として使われたが、現在はデビュー当時のオリジナル仕様に戻されたようだ。

アルファ・ロメオやアバルトのクラシケも出展。ムゼオから1955年の750コンペティツィオーネを持ち込んだ。ジュリエッタ750系のイメージアップ戦略として開発され、エンジンも1500ccに拡大されて145馬力を発揮して690kgの軽量な車体を220km/hまで引っ張ったが、残念なことにレースには登場せず市販化もされなかった。

イギリスの名門BRMは3台の出品が数えられた。こちらはBRMの最初のミッドシップF1であるP48。ダン・ガーニーが乗って、1960年のオーストラリアの国際レースで優勝。

1961年から1965年までの5年間に施行された1500ccまでに排気量が規定された時代のF1は極めて繊細な精密機械で美しい。これはリッチー・ギンサーが乗った1962年のP578。

1966年から施行された3Lの排気量規定のF1のために開発されたコスワースDFVはコンパクトでバンランスの取れたエンジンとしてF1で長い期間に渡って多くの勝利を獲得した。DFVは、最初はロータスが独占していたが、次にマクラーレンも獲得し、このマクラーレンM7Aはブルース・マクラーレンとデニス・ハルムによって1968年のF1世界選手権で3勝した。

マクラーレン最初のF1であるM2B（セレニッシマ製V8エンジンを搭載してスパなどに出場）を設計した航空工学のエンジニア、ロビン・ハードが、後にFIAの会長にのし上った辣腕弁護士マックス・モズレーと立ち上げたレーシング・コンストラクターがマーチである。その2作目のF1が711で、ロニー・ピーターソンやニキ・ラウダが、必ずしも上出来でなかったマーチで名を挙げた。

1960年にロータスでF1にデビューして、クーパー、ローラで戦ったジョン・サーティースは、1965年にフェラーリでワールドチャンピオンを獲得した後はホンダ、BRMを経て、1970年から自らのチームでF1へ参加した。当初はマクラーレンM7Aを購入しての参戦だったが、やがて自らがコンストラクターとなってF1やF2を開発。エンジンはDFVでシンプルな構成が特徴。

レトロモビルには自動車をテーマにしたファイン・アートのブースもあり、様々な自動車アーチストが作品を発表しているが、そのなかでも吉田秀樹画伯の展示コーナーはいつも特別扱いで、やはりフランスでも傑出した存在であるのだなあ、とつくづく思う。

フランスの石油会社であるトタルとエルフは、現在ではグループ会社だ。こんな一昔前の雰囲気のガソリンスタンドの原寸大ジオラマ風展示がレトロモビルにふさわしく好感が持てる。エルフやトタルのグッズを売っていたアルバイトの女の子の雑さ加減も悪くない。

モデナ郊外のバッチェリ＆ヴィッラはフェラーリ250LMと250GTルッソのホワイト・ボディを展示していた。

バッチェリ＆ヴィッラはピエロ・フェラーリが出資し、元フェラーリ・クラシケの代表をディレクターに迎えた有力なレストアラーだ。

ジム・ストークは新品のアルファ・ロメオ8Cのエンジンや3000CMのシャシーを展示して技術力を誇示している。歴史の中で失われたクルマも図面があれば零から生み出してくれる。

アバルト2000ピニンファリーナの1/43のミニカーは当時も作られたが、こちらは最近、企画されたフルディテールのレジン・モデル完成品だ。

このアバルト2000ピニンファリーナが生まれた頃に生産されたメカノ・トライアング製のモデルで、プラスティックのモールディングがとても良い。

このマートラF1に手を出さなかったが、今になって買っておけば良かった、と思う。レトロモビルでは、買っても後悔、買わなくても後悔の繰り返し。

最近は1970年前後のヨーロッパF2選手権の出場車がシリーズ化されて、ほとんど全てのモデルが入手できるのが嬉しい。こんなマイナーな企画に幸あれ。

タルガ・フローリオの長い歴史を、すべての参加車両やドライバーから、予選と決勝結果まで詳細に記述した著作の筆者と遭遇。増補改訂英語版を見せてくれた。

アウトデルタの文字入りの青い箱が気になって、中身を見せてもらったら、33/2やTZ2の特殊モデルで活躍したアルド・バルデッリのオマケ付き33部限定版だった。

ペダルカーもレトロモビルではたくさん出品されているが、4名乗車は珍しいかも。四つ子用なのかも。これはいちおうDSを模しているのだろうか。

パナール、ルノー、シトロエンなど1950年代のフランス車のティントイは、高価なれど古雅な趣があり、往時を偲ばせて夢見心地にさせてくれる。

モンテカルロやリエージュ〜ローマ〜リエージュなどのラリーの参加者やオフィシャルのゼッケンなども本物からリプロダクションまで入手可能だ。

ブガッティの名高いレールカーもティントイで多種存在する。これは、どちらかといえば稚拙な出来だが、何度か店の前を通っているうちに売れていた。

クラシックカーに乗るのには、それにふさわしいコスチュームが必要だろう。パリのレトロモビルではその時代に合わせた衣類も、お好みとおりに選ぶことができる。

こちらのポスター屋はレアなものも多数扱っており、また修復の技術も持っている。昨年、初来日してから、すっかり日本贔屓になり今年も4月に来日するそうだ。

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