【小柄で元気なイタリアン】ロンバルディ・グランプリ ベースはフィアット850  後編

公開 : 2021.04.10 17:45

着座位置が低く実際以上に速く感じる

ホイールはスチールではなく、オプションのカンパニョーロ・アルミ。見た目はかなり印象的だが、驚くほど車体が小さい。車高はたった1070mmしかない。

反面、車内はさほど窮屈ではない。体をねじらせて乗り込めば、身長の高いドライバーでも充分な空間が確保されている。背もたれの角度はシックリこないけれど。

ロンバルディ・グランプリ・シリーズ2(アバルト・ジャンニーニ・フィアット・グランプリ/1971年)
ロンバルディ・グランプリ・シリーズ2(アバルト・ジャンニーニ・フィアット・グランプリ/1971年)

フランシス・ロンバルディ社のロゴが入った、ダッシュボードの薄さには驚く。中央のクラスターに、イェーガー社製のメーターが最低限並ぶだけ。

足まわりの空間は、妥協の産物。ホイールアーチが車内に侵入し、ペダルは車両中央にオフセット。否が応でも身体も斜めにならざるを得ない。ただし、一般的なリアエンジン・モデルほど深刻ではない。

ペダルボックスはフィアット850のもの。逆さまに回転され、フロアに固定されている。

活発な走りに、乗り込んだときの不安が吹き飛ぶ。着座位置が極めて低く、実際以上に速く感じられる。馬力は50psもない。遠心力や加速力で、顔の肉が引っ張られるようなことは起きない。

ウォーム&ローラ式のステアリング・ラックは効果的に前輪の向きを変える。シャープでダイレクトだが、フロント側の重量はそもそも軽い。コミュニケーション力も豊かだ。

当然のように、車内は静かではない。コンパクトで回りたがりのフィアット850用ユニットが、ドライバーの後ろで元気に歌いあげ、かなり賑やかだ。

気持ちが上がる小粒で元気なイタリアン

トランスミッションは、強いスプリングの助けでスムーズにゲートを切る。当時のフィアットから想像する、ゴムのようなシフトフィールとはまったく異なり、うれしくなる。

乗り心地は硬めだが、骨まで振動が伝わるような、疲れるものではない。過去の経験から、ペースを速めると神経質になる可能性があることを知っている。フロントタイヤはロックしやすいから、ブレーキング時は注意が必要だ。

ロンバルディ・グランプリ・シリーズ2(アバルト・ジャンニーニ・フィアット・グランプリ/1971年)
ロンバルディ・グランプリ・シリーズ2(アバルト・ジャンニーニ・フィアット・グランプリ/1971年)

運転席からの視界も良くはない。ドアミラーを覗いても、写っているのはクルマの側面付近だけ。

個性あふれるロンバルディ・グランプリだが、運転は非常に楽しい。思わず声を上げて笑いたくなるほど。アニメのヒーローが乗る小さなマシンのようにも感じる。スピード感はあるものの、良識の範囲の速度で満足できる。

色々な要素が混ざり合い、思わず虜になってしまう。気がついたら、筆者はすっかり好きになっていた。

ロンバルディ・グランプリは、普通のものを光らせる力を宿している。独創性とシンプルさが組み合わされることで、特に珍しくない要素から刺激的な体験を生んでいる。乗り降りの時に感じた恥ずかしさも、許せてしまう。

不思議な魅力に溢れたロンバルディ・グランプリ。生産終了までの逸話にも、不思議な魅力が含まれていると思う。気持ちが上がる、小柄で元気なイタリアンだった。

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