ベントレーS1コンチネンタル・ジェームス・ヤング4ドア レストアで第二の人生 後編

公開 : 2021.12.04 07:06

流麗なジェームズ・ヤング社のボディ

美しい自社製のスタンダード・スチール・ボディを被ったベントレーSタイプの方が2500ポンド安く、ジェームズ・ヤング社の経営を圧迫した可能性は高い。モノコック構造に対応が難しい、という技術的な課題もあった。

それでも、このS1コンチネンタルは、スタンダード・スチール・ボディより流麗に見える。ドアを開くと、ミヒャエルズ・ウッド・レストアレーション社の協力を得て直されたダッシュボードが、滑らかにドアパネル側まで伸びる。

ベントレーS1コンチネンタル・ジェームズ・ヤング4ドア(1957〜1959年/英国仕様)
ベントレーS1コンチネンタル・ジェームズ・ヤング4ドア(1957〜1959年/英国仕様)

木目が見事なウォールナットのパネルは艶が深く、ステアリングホイール奥のメーターとの対比が印象的。ステアリングコラムは、身長の高かったエルコラーニに合わせて5cmほど短い。

シートはリクライニング可能だが、意外なほど肉薄。それでも頭上や、リアシート側の空間にはさほど余裕がない。リアドアは開口部が小さく、優雅な乗り降りには少しの練習が必要でもある。

エンジンは4.9Lの直列6気筒で、圧縮比は高めの8.2:1。SUキャブレターが2基載っている。ウォレンダーは、わずかに洗練性で劣るV8エンジンより気に入っている。

最高出力は約180ps。遠くから控えめにエンジン音が響くなかで、活発に加速する。3速から4速へのシフトアップ時以外、変速にも気づかない。

ジェームズ・ヤング社は特に軽量化に務めてはいなかったものの、高圧縮比のエンジンと小さい正面面積で、スタンダード・スチール・ボディのベントレーより最高速度は高い。登り坂も意に介せず、トップのまま800rpmで巡航もできる。

当時の職人に導かれるような不思議な感覚

ブレーキは、ツイン・マスターシリンダーを備える。フロント側もドラムだが、回路にも2系統があり、重心をフロントへ移すのに充分な効きは得られる。乗り心地は硬め。パワーステアリングを介して、驚くほど繊細に進路を決めていける。

ウォレンダーによれば、彼が所有するベントレーS1ファストバックの燃費は、7.1km/Lほどだという。S1コンチネンタルは軽くないボディのおかげで、そこまで伸びない。

ベントレーS1コンチネンタル・ジェームズ・ヤング4ドアのオーナー、アーニー・ウォレンダー氏
ベントレーS1コンチネンタル・ジェームズ・ヤング4ドアのオーナー、アーニー・ウォレンダー氏

とはいえ非常に乗りやすく、操縦性には締りがある。レストア時に現代的な防音材が20kgも追加され、車内は静か。新しいサウンドシステムも素晴らしい。

レストアを成功へ導いたのが、根気強さと細部へのこだわり。バラバラの状態から10か月で、これほどの内容へ仕上げたことが信じがたい。

リースが作業を振り返る。「ジェームズ・ヤング社の技術を考えれば、中途半端なことはできません。当時の職人の手を借りて、導かれるように生き返らせているような、不思議な感覚がありました」

「例えば、フロントフェンダーの固定金具が作業時にないと発覚。4500点のボルトやナットは整理済みだったのですが。でも、その時にたまたま手に取った箱に、ぽつんと入っていたんです」

リースは、ベントレーS1コンチネンタルを新車時のような状態へ仕上げたことに、満足している。「ウォレンダーと一緒の作業は楽しかった。見事に達成できたと思います」

「今度は、彼のACエースとS1ファストバックのレストアが待っています。これから3年を掛けてね」

ベントレーS1コンチネンタル・ジェームズ・ヤング4ドア(1957〜1959年/英国仕様)のスペック

英国価格:7913ポンド(新車時)/30万ポンド(4650万円)以下(現在)
生産台数:16台
全長:5385mm
全幅:1854mm
全高:1549mm
最高速度:185km/h
0-97km/h加速:10.6秒
燃費:5.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:2041kg
パワートレイン:直列6気筒4887cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:非公表(推定180ps)
最大トルク:非公表
ギアボックス:4速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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