類まれな「威厳と満悦」 ベントレー・コンチネンタルGT Sへ試乗 伝統継承のグランドツアラーを再確認 

公開 : 2024.04.29 19:05

ロンドンからカンヌまで、1320kmをコンチネンタルGT Sで 欧州縦断が大冒険だった時代の伝統 類まれな威厳と心理的な充足感 英国編集部がグランドツアラーを再確認

欧州縦断が大冒険だった時代の伝統

決まり文句を使わず、表現するのは難しい。自己主張の強い、ロングノーズのグランドツアラーで、地中海沿岸のリゾート地を目指した。変速は電光石火。身のこなしは、アスリートのように身軽だった。

実のところ、英国と欧州を隔てるドーバー海峡から、地中海までの移動を最短時間でこなせるグランドツアラーは、以前ほど大きな意味を持っていないだろう。

ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)
ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)

フランスの新幹線、TGVは574.8km/hで走ることもできる。営業速度はもっと遅いが。お金があるなら、飛行機に乗れば良い。平均的なクルマの性能も上昇した。

100年ほど前なら、ベントレー・ブロワーとフォード・モデルTとの間には、歴然の性能差があった。50年前でも、ベントレーとフォードの差は縮んでいたが、大きな馬力には確かな意味があった。レザーシートも特別だった。

流線型のボディに可変式ダンパー、最高出力329psの直列6気筒エンジンを得たアストン マーティンDB6は、同時期のファミリーカーより遥かに小さな疲労で長距離を移動できたはず。しかし、2024年では状況が違う。

15年落ちのフォルクスワーゲン・ゴルフですら、古いアストン マーティンより快適。穏やかに高速巡航できる最新のBMW 3シリーズは、優れたグランドツアラーになる。

欧州縦断が大冒険だった時代の伝統を受け継ぐモデルは、今でも特別な体験を与えてくれるだろうか。ゴルフ以上の移動時間になるのか。そんな答えを再確認したいと思い、筆者はフランス・カンヌへ向かった。

ロンドンから1320km離れたカンヌへ

そこでは、改良を受けたメルセデス・ベンツVクラスの発表会が予定されていた。顔見知りの自動車ジャーナリストは飛行機で向かうようだが、自分が選んだのはベントレー・コンチネンタルGT S。ピッタリの機会だ。

4.0L V8ツインターボエンジンが載り、最高出力は549ps。エアサスペンションにアクティブ・アンチロールバー、スポーツエグゾースト、スポーツデフが組まれている。

ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)
ベントレー・コンチネンタルGT S(英国仕様)

ロンドンから1320km離れた、カンヌのホテル・ベル・プラージュへ、19:30に到着したい。現代でもかなりの距離だが、早朝5時に出発すれば間に合う。アルパイン・グリーンに塗られたコンチネンタルGT Sなら、きっと快適に違いない。

アルミホイールはブラック。インテリアはタン・レザー。金属製の部品は、丁寧にローレット加工されている。薄霧の中を発進したら、眠気はすぐに吹き飛んだ。

1912年のこと、WO.ベントレー氏の兄弟、アーサーが感染症で命を落とした。彼は遺灰を撒くため、フランス製のDFPタイプ12/15というクルマを運転し、31時間かけてロンドンからスコットランドを目指したという。

「死ぬほど疲れて、窮屈でしたが、自分は正しいことをしたと感じています」。という言葉を残している。今なら、真冬にケーターハム・セブンを運転し、ロンドンからラトビアを目指すような旅だろう。

この逸話が、彼が1919年に創業したベントレーのクルマ作りへ大きな影響を与えたことは間違いない。サイズは大きく信頼性が高く、エンジンは太いトルクを生み出した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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