ダイハツ・ムーヴ・カスタムRS

公開 : 2014.01.30 17:50  更新 : 2017.05.29 18:45

まあ、こうした競合車との激しいツバぜりあいは軽自動車の宿命なのだが、実のところ、徹底した静粛性対策やサスペンションチューンの完全刷新のほうにこそ、新しいムーヴ最大のキモがある。N ONEでのホンダも主張していたが、「白ナンバー登録車からのダウンサイズ需要、もしくはコンパクトカーとガチンコ比較されたうえでのユーザー奪取」が、デフレ日本における軽自動車最大の使命となりつつある。

ムーヴの走りは明らかに高級になった。とくに軽特有のナロー感を払拭したダンピングチューンや直進性、そして静粛性はたいしたもの。グレードを問わずにズシッといい感じに重いパワステも、これまでとはちょっと方向性が異なる。タイヤ指定空気圧は2.4barで、ワゴンRのように特殊なチューニング(燃費志向モデル2.8bar)にハマりこんでいない。

あと、サスチューンをエンジンと駆動方式ごとに統一したことで、(一部福祉グレードを除く)全車に前後スタビライザーが備わるようになったのは軽主要モデル初の朗報であり、ダイハツの英断だ。今回は自然吸気(で、後述する自動ブレーキつき)のXと最上級RSの試乗だったが、低パワーのNAのほうがきちんと乗り心地がいい。なんとなくロール軸が後傾しているようなダイハツ特有のクセは払拭されていないものの、安定感と乗り心地の両立次元は軽NAハイトワゴンではトップといっていい。

安価なモデルでスタビを省略してしまう従来の軽自動車では、こういう筋のとおったバランスが取れていないケースが大半だった。こうしたサス仕様の統一のような手法は、ダイハツがミラ・イースの開発で会得した「仕様数削減によるコストダウン」に沿うものだが、これこそ買う側にもメーカー側にもメリットがある本当に良心的な技術であり工夫である。

ところで、ムーヴのNA車には新たに低速追突防止用の自動ブレーキが設定された。これももちろん軽初。前走車リヤエンドのリフレクターのみをレーザーレーダーで検知する設計で、作動は30km/h以下(衝突回避は20km/h以下)と、あくまで「軽微な追突事故の防止」にのみ特化している。レーダーは人間その他の障害物にも反応するが、誤作動を防ぐために。クルマへの追突以外は警告音のみで自動ブレーキはかけない。ムーヴの自動ブレーキは重傷事故防止にはたいして役立たないが、市街地での“コツン”を防止するだけでも一定の事故低減効果はあるだろう。

それよりも、スバル・アイサイト効果で「次のクルマは絶対に自動ブレーキつき」と心に決めている日本人は多い。また、ユーロNCAPでは2014年から低速自動ブレーキを「フルマーク評価の最低条件」とすることが確定。欧州ではすでに全車標準化に動いており、日本も追従する可能性が高い。自動ブレーキが常識となる日は本当にすぐそこだが、今回ムーヴが動いたことでその普及速度はさらに加速する。

(文・佐野弘宗 写真・田中秀宣)

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