サルーンボディを切り貼り! フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1) 生き残りをかけたワゴン

公開 : 2024.03.03 17:45

1950年代の英国サルーン市場で圧倒的シェアを誇ったフォード ステーションワゴンを手掛けたコーチビルダーのEDアボット社 英編集部が極上の1台をご紹介

生き残りのためのステーションワゴン・ボディ

1950年代の英国フォードは、グレートブリテン島のサルーン市場で圧倒的シェアを誇っていた。その主役といえたのが、コンサル、ゼファー、ゾディアックという3兄弟。この成功によって、ステーションワゴンの提供は真剣に捉えられていなかった。

ルーフラインの延長は社内で検討されていたものの、資料に残るプロトタイプの写真を見る限り、美しさと実用性の両立には苦労していた様子。そこへ目を付けたのが、英国南部、ファーナムに拠点をおいたコーチビルダー、EDアボット社だった。

フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)
フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)

量産車はモノコック構造が一般的となり、セパレートシャシーを前提に特別なボディを仕立てていたコーチビルダーは、仕事を奪われつつあった。生き残りのため、ステーションワゴン・ボディの製作は不可避といえた。

1954年のロンドン・モーターショーに出展されたコンセプトモデルが、フォードによる依頼だったのか、EDアボット社が独自に提案したものなのか、明らかではない。それでも、丸みを帯びた初代ゼファー MkIは、ステーションワゴンの好適な土台になった。

モノコック構造を採用したフォード初の量産車だったゼファー MkIは、前例がなかったこともあり、かなり強固にボディが設計されていた。そのおかげで、剛性を大きく落とす心配なく、ボディ後方を切断することが可能だったようだ。

高い実用性と違和感のないシルエット

EDアボット社の工場で、リアピラーから後ろへ新しいサイドパネルを溶接。既存のサルーンをベースにしたとは思えないほど、見た目の整ったステーションワゴンが生み出された。

ポイントといえたのが、ルーフライン。ドーム状に膨らんだオリジナル部分を保ちつつ、延長部分を僅かに低い位置でつなげ、剛性を確保。クロームメッキされたルーフレールとストラップを追加し、高い実用性と違和感のないシルエットを生んだ。

フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)
フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)

テールゲートは横開きで、リアウインドウはサルーンのものを流用。ゼファー MkIだけでなく、コンサル MkIとゾディアック MkIでも、ステーションワゴン仕様を選ぶことができた。145ポンドから200ポンドの追加費用を準備すれば。

この優れたベースとなったゼファー MkIは、1951年に発売。エンジンはゾディアックと同じオーバーヘッドバルブの2.2L 直列6気筒で、四輪に油圧ブレーキを装備した。サスペンションはフロントに独立懸架式を採用するなど、モダンな技術が投じられていた。

最高速度は136km/hがうたわれ、前後のベンチシートで定員は6名。マクファーソンストラットが快適な乗り心地を提供し、来るべき高速道路時代に対応した。当時の英国のドライバーにとって、歓迎されるパッケージングといえた。

安価に設定されたコンサルは、大きなボディを必要としつつ、倹約思考の家族向け。エンジンは1.5L 4気筒が載った。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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