旧車は「本当の日常の足」になる?(1) フォード・カプリ Mk2で実験 理想と現実に揺れる

公開 : 2024.01.06 09:45

高速道路や郊外の幹線道路、夜間や雨天 現代の多様な条件へ古い量産車は対応できるのか 英国での法改正に合わせ、英国編集長がカプリで確認

現代の条件へ古い量産車は対応できるのか?

筆者を乗せた年代物のフォード・カプリが、200mほど進む。交差点で緩やかに右折を試みると、不意にガラガラという音が前方から響いた。予期していなかったが、聞き慣れたものでもあった。

自然と50年ほど昔の記憶が蘇る。ヒーターファンのブレードに、紛れ込んだ落ち葉が当たるノイズだ。かつて自分が所有していたコルチナ 1600Eで、この音を数えきれないほど聞いてきた。

フォード・カプリ 1.6L(Mk2/1974〜1978年/英国仕様)
フォード・カプリ 1.6L(Mk2/1974〜1978年/英国仕様)

この頃のフォード車は、フロントガラスの付け根にある吸気ダクトから小さな落ち葉が入り、その奥のファンへ吸い込まれることが珍しくなかった。カーブでは、稀にファンの回転を妨げることも。

筆者が編み出した対処法は、ファンを高速へ切り替えて、落ち葉を粉々に砕いてしまうこと。毎回ではないが、うまく機能したのを覚えている。

今回、47年も昔のカプリ Mk2へ乗ろうと考えたキッカケは、英国の法改正。40年以上前に製造された一部のモデルで、ロンドン中心部でのウルトラ・ローエミッション・ゾーン(ULEZ)規制が緩和されたのだ。

つまり、12.5ポンド(約2300円)の通行料が免除される。ロンドンまでクラシックカーで通勤することも、条件としては可能になったといえる。

そして疑問は広がった。高速道路や郊外の幹線道路、夜間や雨天など、現代の多様な条件へ古い量産車は対応できるだろうか。AUTOCARではクラシックカーのコンテンツも多いが、実際のところ、筆者も新しいモデルの機能性に甘やかされている1人だ。

現代のガソリン車は静かで、排気ガスが綺麗

英国フォードのヘリテイジ・コレクションは、それを確かめるのに好適。写真映えするミッド・ブルーの塗装にビニール張りのルーフを備えるカプリ 1.6Lは、女性オーナーが7万7000kmを走行した後、寄贈されたのだという。

筆者のようなメディアの好奇心へ応えられるよう、車検を取得し走れる状態が保たれている。走行距離が800kmは増えることをお伝えしたが、快く貸し出してくれた。

フォード・カプリ 1.6L(Mk2/1974〜1978年/英国仕様)
フォード・カプリ 1.6L(Mk2/1974〜1978年/英国仕様)

ロントン東部のダグナムに、英国フォードは約100台のコレクションを保管してきた。初期のT型から商用車までラインナップは極めて多彩だったが、環境としては完璧ではなかった。

しかし最近になって、グレートブリテン島中部のダベントリーにある、欧州フォードの本部へコレクションを移動。広大な敷地に、ヘンリー・フォード・アカデミーという施設を整えようとしている。

コレクションを管理するのは、キュレーターのレン・キーン氏と、彼を支えるクリス・スミス氏。年式やモデルタイプによって分類され、整理されている。予定通り準備が進めば、2024年の春先には一般公開されるという。

カプリの運転席へ座る。キーを捻ってもエンジンはくすぶるだけ。チョークレバーの存在を忘れていた。引っ張ると、すぐに安定したアイドリングが始まった。

排気音は大きめ。排気ガスは臭い。半世紀ほど前のキャブレター車は、こんな感じだった。2秒もクルマの後ろに立っていれば、現代のガソリン車は静かで、排気ガスが綺麗なのだと実感できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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