「英国王室」御用達ワゴン フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(2) 汚れた荷物は積みたくない

公開 : 2024.03.03 17:46

1950年代の英国サルーン市場で圧倒的シェアを誇ったフォード ステーションワゴンを手掛けたコーチビルダーのEDアボット社 英編集部が極上の1台をご紹介

英国王室御用達になったステーションワゴン

フォード・ゼファー MkIIに載った直列6気筒エンジンは、MkIの2.2Lから2.5Lへ拡大。ハイオクタンに対応した圧縮比が与えられ、最高出力91psを発揮し、最高速度は144km/hがうたわれた。

ホイールサイズは13インチ。トランスミッションは3速マニュアルが標準で、オプションでオーバードライブを指定できた。3速オートマティックも用意された。

フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)
フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)

MkIと同様に、ゼファー MkIIはモータースポーツでも活躍。ワークスチーム体制で挑んだアルペン・ラリーとモンテカルロ・ラリーではクラス優勝を果たし、1959年の英国サルーンカー選手権でも優勝を掴んでいる。

コーチビルダー、EDアボット社によるステーションワゴンは、拠点のある地名にちなんで「ファーナム・エステート」と呼ばれ、フォードの正式モデルに。英国王室にも選ばれ、ウッドパネルの貼られた特別なワゴンを、女王は移動手段の1つとしていた。

1959年にフェイスリフト。ルーフが僅かに低められ、ステンレス製トリムでウインドウが縁取られるなど、見た目が一新されている。インテリアも、ダッシュボードにパッドが張られ、新しいシートが与えられた。

その年までに、2代目のコンサル、ゼファー、ゾディアック3兄弟は、14万2000台を販売。英国警察にも真っ白なゼファー・ステーションワゴンが7台導入され、注目度が下がることはなかった。

1960年仕様から、フロンドのディスクブレーキにサーボアシストが導入。1962年の春にMkIIIへバトンタッチするまで、11年間で合計100万台を提供するに至った。

汚れた荷物を積もうとは思えない

かくして、サルーンより高価で生産数の少なかったステーションワゴンは、残存数も少ない。希少な英国製クラシックとして、マニア間での引き合いは高いようだ。

今回ご登場願った、1961年式のゼファー MkII ファーナム・エステートほど好ましい例は極めて珍しい。1990年代前半に丁寧なレストアを受けており、見事な状態のまま、現オーナーのロバート・ヒューズ氏が8年前に購入したという。

フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)
フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステート(1956〜1962年/英国仕様)

ロバートは、別れを惜しんだ前オーナーの意志を受け継ぎ、丁寧に面倒を見ている。当時の良好な部品が入手できると、都度リビルドしているという。

ニューアーク・グレーとアランデル・グレーという、シックなツートーン塗装は、見惚れるほど美しい。不自然な新しさはなく、レストアされたようには見えない。2022年には、オーナーズクラブのコンテスト・イベントで優勝したそうだ。

ボンネットを開くと、大きなエンジンルームの中で、アクアプレーン社のチューニングを受けた6気筒エンジンが姿を現す。専用マニフォールドにより、トリプルSUキャブレター化されており、スポーティな雰囲気を漂わせる。

横開きのテールゲートは、斜め上方へスイング。照明も備わる荷室は上等に仕立てられ、汚れた荷物を積もうとは思えない。リアシートの背もたれを折りたためば、ベッドも問題なく載るだろう。

この例では、スペアタイヤはフロア下。サイドウインドウ側に立てて固定し、フロア下の空間を利用する仕様も選べた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フォード・ゼファー MkII ファーナム・エステートの前後関係

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