スタートからまったく違う 4モーター1070psのFCX-1とは? 静かな電動ラリークロス・マシン 

公開 : 2023.08.07 08:25

とても面白くて速いことは間違いない

「しかし瞬間的に大きなトルクが生まれる場合、一気にフルスロットルにして路面をタイヤで蹴り出すことが重要になります。トラクションを得るのは、それからです」

FCX-1は車重が1700kgほどあり、内燃エンジンのマシンより500kgも重い。その違いは、コーナリング時のレスポンスに表れるという。早い段階で直進状態へ整え、パワーを掛けることが大切になるらしい。

FCX-1 ラリークロス・マシンとドライバーのアンドレアス・バッケルド氏
FCX-1 ラリークロス・マシンとドライバーのアンドレアス・バッケルド氏

ラリークロス・コースの特徴となるジャンプセクションでも、重さによる違いがある。内燃エンジンのマシンはフロントノーズが重く、ダウンフォースも大きく働く。

しかし、電動マシンは前後の重量バランスが良好で、ダウンフォースが大きくは発生しない。「ジャンプ中は有利ですね」。とバッケルドが続ける。

ノイズの欠如は、走行中にも影響を与えるそうだ。「フロアに蹴り上げた土や石が当たる音など、様々なノイズが響きます。グリップやトラクションの状態を把握するために、聴覚的な違いも学ぶ必要がありました」

バッケルドは、一般的な電動ハイパーカーで失われる音響的な体験にも触れる。それが少し残念だと認める。

「ノイズが懐かしいです。でも、とても面白くて速いことは間違いありません。テレビを消音にしてラリークロスのビデオを見ているような、そんな感覚かもしれません」

電動ラリークロス・マシン FCX-1の特徴

このFCX-1は、ラリークロス・チームのオルスバーグスMSEと、電動モビリティを得意とするQEVテクノロジーズ社による共同開発。コストを抑えつつ高い性能を実現し、2022年シーズンから導入が始まっている。

モンスター・エナジー・ラリークロス・チームで技術者を務めるジョナサン・キャリー氏は、これまでのキャリアで多くのマシンに携わってきたが、FCX-1に匹敵するものはなかったと振り返る。そんな彼に、マシンの特徴を伺った。

パワートレイン

FCX-1 ラリークロス・マシン
FCX-1 ラリークロス・マシン

「モーターは4基。タイヤ毎に分割されているのではなく、4基が一体になっています。フルタイム四輪駆動で、トルク分配率は50:50の固定。基本的にはメカニカル・デフですが、パワーが大きいのでユニット自体も大きいですね」

トランスミッション

「バッテリーEVでは珍しく、リア側に3速シーケンシャルが組まれ、フロントデフへ伝達するプロペラシャフトが備わります。トルクが太いので、レースでは2速と3速しか使いません。1速はバラストみたいなものです」

ブーストモード

「5種類のブーストモードが用意され、ドライバーが選べます。最大の300kW(約407ps)のブーストを有効にするには、駆動用バッテリーの残量が80%以上必要で、約2周は使えます。弱いブーストなら、もっと長く有効です」

サスペンション

「非常にアグレッシブな特性で、ダンパーの長さはかなり短いんです。車重が1700kgあり、バネ下重量も軽くないので、ダンパーの開発には相当な努力が費やされています」

「ダートやジャンプを前提に、スプリングはソフトに設計されています。姿勢制御は油圧でまかなわれている感じです」

ブレーキ

「ブレーキは強力。制動力を補助する目的で、回生ブレーキも備わります。アクセルペダルを戻した時に有効にするか、ブレーキペダルを踏んだ時に機能させるか、ドライバーが選べます」

タイヤ

「わたしたちのチームでは、ポルシェのGTレース用ウェットタイヤを履かせています。ラリークロス用ではありませんが、ダートコースでも問題無く使えることに驚いています。将来的には、専用タイヤの開発も検討されているようです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

関連テーマ

おすすめ記事

 

EVの人気画像