スタートからまったく違う 4モーター1070psのFCX-1とは? 静かな電動ラリークロス・マシン 

公開 : 2023.08.07 08:25

アメリカで実戦に挑む、1070馬力の電動ラリークロス・マシン。FCX-1を駆るドライバーへ、英国編集部がその特徴を伺いました。

電動パワートレインと相性がいいラリークロス

日本では馴染みが薄いものの、オンロード・コースとオフロード・コースが混在したサーキットを高速で駆け回るラリークロスは、欧州や北米では比較的人気のモータースポーツになっている。

ハイパワーなマシンが競い合うエキサイティングなレースだが、スプリント形式で走行距離は短く、実は電動パワートレインとの相性がいい。既に多くのチームが、バッテリーEVで戦っている。

FCX-1 ラリークロス・マシン
FCX-1 ラリークロス・マシン

それでは、内燃エンジン・マシンとの違いはどんなものなのだろう。ドライバーへ求められるスキルは異なるのだろうか。筆者はアメリカへ渡り、直接確かめることにした。

電動のラリークロス・マシンを駆るアンドレアス・バッケルド氏は、そんな変化を受け入れた1人だ。過去7年間はターボエンジンを積んだマシンで戦い、2021年シーズンには欧州チャンピオンに輝いている。

ノルウェー出身で31歳。ドライヤー&ラインボールド・レーシングが運営する、モンスター・エナジー・ラリークロス・チームに所属し、北米を中心にシリーズ戦が開かれるニトロクロス・シリーズのトップクラスに挑んでいる。

ドライヤー&ラインボールド・レーシングは、4基の駆動用モーターで1070psを発揮する「FCX-1」を2022年シーズンに導入。バッケルドは、アプローチを根本から変える必要があったと振り返る。

「ターボエンジンで身につけてきたことは、電動マシンの場合、同じようには活かせません。慣れるまで、多くの人より苦労したと思います。順応を求められることが、多くありました」

スタートからまったく違う静けさ

その違いは、グリッドに並んだ時から存在するという。「格闘技の試合と同じように、アドレナリンが溢れる感覚はありますが、スタートからまったく違うんです」

「ターボエンジンのマシンでグリッドに並び、回転数を上昇させてグワーッというサウンドが放たれると、興奮が高まります。気が引き締まり、時間があっという間に過ぎます」

FCX-1 ラリークロス・マシン
FCX-1 ラリークロス・マシン

「しかし、電気自動車は静かなまま。シグナルが点灯するまで、不自然なほど時間が長く感じるんです」

それでもスタートすれば、1070psを開放するラリークロスマシンに、ドラマ性が不足することはないようだ。エグゾーストノイズがなくても。「このクルマは、今まで経験したことのないものでした。とにかく速いんです」。とバッケルドが笑う。

フルタイム四輪駆動で、発進直後から最大トルクが放出される。可能な限り多くのパワーを、タイヤへ効果的に伝達することがカギだという。

「本来の自分のスタイルは、滑らかにアクセルペダルを操ること。世界チャンピオンにも輝いた、レーシングドライバーのマティアス・エクストロームさんと同じチームにいた時は、彼より0.1秒だけ速く周回できるサーキットがありました」

「データを確かめると、彼はサーキットの67%でアクセル全開。でも、わたしは7%しかフルスロットルではなかったんです。お尻へ伝わるフィーリングで、トラクションの具合を感じ取っていたんです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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