同じボディに3種のエンジン ロールス・ロイス・シルバーセラフ ベントレー・アルナージ 名門のねじれ 前編

公開 : 2023.09.16 17:45

自然吸気5.4L V12とツインターボ4.4L V8

シルバーセラフ用となったのは、5379ccの自然吸気V型12気筒。BMW 750iに搭載されていた、M73型のオーバーヘッドカム・ユニットで、最高出力326psを発揮。ZF社製の5速ATと組み合わされた。

シルバースピリットに載っていた6.75L V8エンジンより遥かに有能で、ユーロ3規制にも対応。滑らかなオートマティックとの相性もバッチリだった。

ロールス・ロイス・シルバーセラフ(1998〜2002年/英国仕様)
ロールス・ロイス・シルバーセラフ(1998〜2002年/英国仕様)

他方、ベントレーはスポーティな方向性を選んだ。BMW 540iや840Ciへ採用された、ダブル・オーバーヘッド・カムのM62型4.4L V型8気筒がアルナージへ搭載された。

当時はヴィッカーズ社の傘下にあった、コスワースの技術者によりツインターボを合体。最高出力は355psへ引き上げられた。トランスミッションは、同じZF社製の5速オートマティックが組まれた。

両ブランドに好適なエンジンを受け止めるプラットフォームは、まったくの新設計。ボディ剛性は、先代から65%も高められた。

サスペンションは、前後ともコイルスプリングとウィッシュボーンを採用した独立懸架式。リア側には、車高調整機能も実装された。

アルナージの方がスポーティな設定で、スプリングとダンパーはシルバーセラフよりタイト。ステアリングはラック&ピニオン式で正確性を高めつつ、これも2台でチューニングが異なった。

贅を尽くした素材で仕立てられたインテリア

先代より全長が約125mm、ホイールベースが約50mm長いスタイリングを描いたのは、デザイナーのスティーブ・ハーパー氏。滑らかなボディラインで、実際よりコンパクトに見えるよう工夫された。

ロールス・ロイスたらしめた、フロントのパルテノングリルは穏やかなデザインに。大胆なウェストラインは、1950年代のシルバークラウドに影響を受けたもの。テールエンドへ向けてなだらかにカーブを描き、全体の印象は非常にたおやかだ。

ベントレー・アルナージ(グリーンレーベル/1998〜2001年/英国仕様)
ベントレー・アルナージ(グリーンレーベル/1998〜2001年/英国仕様)

インテリアは、贅を尽くした素材で仕立てられた。木目の美しいウッドパネルに、ウィルトン・カーペット社のカーペット、コノリー社のレザーが惜しみなく用いられ、トラディショナルでラグジュアリー。

ダッシュボードの基本構造は共有していたものの、メーターやスイッチ類のレイアウトにも2台で違いが与えられた。メーターの枚数が多いのはアルナージ。シルバーセラフには、コラムシフトが採用された。

開発は1998年までに完了。ロールス・ロイスというブランドを引き立てるため、同年のスイス・ジュネーブ・モーターショーで、シルバーセラフがひと足先に公開された。

アルナージは、ブランドの伝統を振り返り、2か月後のル・マンでお披露目。サルト・サーキットの公道区間に、アルナージ・コーナーが存在することを考えれば、最適な場所といえた。

しかし、2台の将来には不安がつきまとった。発表前から、ヴィッカーズ社が両ブランド売却するのではないかという噂が流れ、パワートレインを提供するBMWが経営を継ぐだろうという憶測もあった。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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