FIA会長、F1の内部対立を語る モハメド・ビン・スライエム氏にインタビュー 自身の論争、透明性、リバティについて訊く

公開 : 2023.09.25 20:05

・FIAのビン・スライエム会長にインタビュー。内部対立や自身の巻き起こした論争について語る。
・FIA会長がF1に求めるものとは何か。リバティ・メディアとの関係は。

論争の中心に立つ人物

モハメド・ビン・スライエム氏が世界的なモータースポーツの統括団体FIAの会長に就任した最初の任期を特徴づける形容詞として、よく使われるのが「controversial(物議を醸す)」というものだ。

それも無理はないだろう。2021年シーズンのアブダビGPの波乱とF1世界選手権の運命を変えたレースコントロールの決定の渦中、2021年12月に就任したのだから。彼の最初の仕事は、自身が作り出したものではない混乱を収拾するというものだった。

FIAのために戦う決意を表明したビン・スライエム氏
FIAのために戦う決意を表明したビン・スライエム氏

ビン・スライエム氏の任期において、F1の火種の中心にある本当の戦いは、F1の監督機関であるFIAとF1の商業権所有者であるリバティ・メディアの間に生じた、最も寛大に表現すれば「緊張」と呼べるものである。

両者はシリーズの利益のために協力し合わなければならないが、緊密に協力し合っているときでも不和の底流は常に存在し、発火点が与えられれば全面戦争に発展する可能性を秘めている。とはいえ、現在はまだそのような状況には至っておらず、「frenemies(友人でもあり敵でもある)」という表現がこの関係を特徴づけるのに最もふさわしいかもしれない。

その中心人物の1人であるビン・スライエム氏のキャラクターは、FIAのために戦う、という決意によく表れている。ベルギーGPの週末、FIAの新しいモーターホームで61歳の彼にインタビューしたところ、そのことがよくわかった。

誤解を恐れない強気の口調

フェラーリの元チーム代表ステファノ・ドメニカリ氏が率いるリバティ・メディアとの戦いを恐れているかと尋ねると、彼は「いいえ、決して」と首を振る。

「わたしはFIAの立場を理解しています。わたしは誰を代表しているのか? 所有者、つまり選手権のオーナーです」

リバティ・メディアのステファノ・ドメニカリ氏との間で口論が頻発
リバティ・メディアのステファノ・ドメニカリ氏との間で口論が頻発

「確かにリバティ・メディアにリースしましたが、彼らはいい仕事をしています。彼らとは良い関係を築けている。しかし、わたし達は自分の立場を理解しなければならない。この明確さが重要なんです」

「ルールや(2026年以降の)新パワーユニット、あるいは(新規参入を検討しているチームの)関心表明については、FIAが最初に発言権を持つべきです」

ビン・スライエム氏は説得力のある話し手で、英国人記者(インタビュアー)の耳には対立的と解釈されかねない力強い口調の持ち主だ。これは誤解を招きかねないが、彼が重要だと考える問題に対する姿勢の表れでもある。

彼は定期的に適正な手続きの話題に戻る。F1に関して言えば、FIAがルールを作り、管理していることを考えると、それが彼にとって最強のカードとなる。それ以外では、地盤が揺らぐこともある。例えば、商業的な問題への介入を非難する書簡の中で、F1の評価額を200億ドルと「誇張された」と公に発言したことで戒めを受けた。

これによって彼は後手に回った。しかし、規制当局が商業的な問題に干渉すべきではないという原則はどちらにも当てはまるものであり、彼は現在、リバティ・メディアはルール形成に関与すべきではないという原則に大きく傾いている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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