胸が打たれるアウトバーンの走り アウディeトロンGTで欧州大陸を巡る 電動グランドツアラーの可能性(2)

公開 : 2023.10.07 20:26

電動化時代のグランドツアラー、eトロンGT イタリアへの1465kmで英国編集部が実力を検証 無音で走る体験は脳裏に刻まれるのか  

フィスカー・カルマの精神的な後継モデル

ドイツを南へ下り、南西部のバーデン・バーデンへ。ここには、50kWの急速充電器がある。辿り着くと、非常に珍しいフィスカー・カルマが繋がれていた。

2011年に発売されたカルマの価格は、当時10万ドル。レンジエクステンダー用の2.0L 4気筒エンジンを搭載し、システム総合408psを発揮するプラグイン・ハイブリッドだ。0-100km/h加速は5.9秒、最高速度は201km/hが主張された。

アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)
アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)

超高効率なグランドツアラーとして、有望な雛形といって良かったが、駆動用バッテリーのサプライヤーが2012年に倒産。フィスカーも経営破綻へ至り、最終的に2500台の生産数へ届くことはなかった。

10年の時を経てリリースされたアウディeトロンGTは、カルマの精神的な後継モデルといえるかもしれない。最高速度244km/h、0-100km/h加速4.1秒という能力は、それに相応しい。

eトロンGTのボディの前後には充分な荷室があり、合計すると490Lになる。BMW M5ほど広くはないが、大人2名の旅の荷物は問題なく飲み込んでくれる。製造品質やソフトウエアの完成度も優秀だ。

パノラミック・ガラスルーフを選ぶと車重が増え、航続距離は5km程度短くなる。とはいえ、開放的な車内が手に入ることを考えれば、選ぶ価値はある。

2011年には、日産リーフも発売された。eトロンGTの能力を知ると、それから約10年しか経過していない事実へ驚く。新しいロータスエメヤポールスター5が、電動4ドアサルーンの競争をさらに1歩進めることだろう。

ドイツの黒い森を縫う一般道もホーム

駆動用バッテリーを満たし、黒い森、シュヴァルツヴァルトを縫う一般道へ。ダイナミック・モードを選び、サスペンションを引き締める。アクセルレスポンスが向上し、ステアリングが重くなる。2速ATの組まれたリアアクスルが、本領を発揮する。

メーター用モニターのグラフィックが、レッドに変わる。車内には、加速時に人工サウンドが響き始める。

偶然遭遇したフィスカー・カルマと、アウディ eトロンGT
偶然遭遇したフィスカー・カルマと、アウディ eトロンGT

eトロンGTにとって、ドイツのB500号線は間違いなくホーム。緩やかに伸びる高速コーナーが連なり、軽くない車重を感じにくい。アスファルトは平滑で、エアスプリングが硬くなっても乗り心地への影響は小さい。

道幅は広く、視界も広い。eトロンGTは、キビキビと正確にラインを辿る。旋回時の、安定し落ち着いた身のこなしは、ミドシップ・スポーツカーを彷彿とさせる。

アクセルペダルの加減で、コーナリング・スタンスも僅かに調整できる。脱出加速の瞬発力は、ポルシェ911 ターボのようでもある。

アウトバーンでのマナーも素晴らしいが、ここでの振る舞いも引けを取らない。だが、ドライバーを感動させるほどではなかった。それは、ドライビング体験が一元的なものだからだろう。

連続するカーブの処理能力は華麗といえ、思わず気持ちが高ぶる。しかし、魅惑的なエンジンを搭載したモデルとは異なり、単調さが拭えない。残念だが事実だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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