クラシック・ベントレーの異端児 3リッター・スーパースポーツ 時速100マイル保証 前編

公開 : 2022.07.16 07:05

大きなレストアを受けず近年まで生き抜いた、1925年式ベントレー。160km/hの能力を持つ1台を、英国編集部がご紹介します。

時速100マイルを実現したスーパースポーツ

現在わたしたちが乗っている普通車の多くは、160km/h(時速100マイル)というスピードを出すことも難しくはない。条件さえ許せば。しかし100年ほど前に遡れば、そんな高速移動を経験できるのは特別なドライバーに限られた。

時速100マイルを突破できる能力を持つモデルは、センセーショナルな存在ですらあった。そんな注目を1925年に集めたクルマが、大きく翼を広げたグリーンのロゴが与えられた最初のベントレー、3リッター・スーパースポーツだ。

ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)
ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)

標準の3リッターをベースに、高性能なショートシャシー仕様が作られたのは、1925年から1927年の3年間で合計18台のみ。そのすべてに、ベントレーによる時速100マイル保証が付帯していた。

高性能化が図られた3リッター・スピードの価格が925ポンドだったのに対し、スーパースポーツは1050ポンド。さらにベントレーはシャシーのみを販売したため、架装を手掛けるコーチビルダーへ、オーナーが独自のボディ製作を依頼する必要があった。

3リッター・スピードより9.5インチ(約241mm)短い、9フィート(2743mm)のホイールベースを持つシャシーは、25kg軽量。1143kgという重さで、当時の熱心なドライバーの支持を集めることになった傑作だ。

今回は、その貴重なクラシック・ベントレーをご紹介させいただきたい。

WO.ベントレーの4気筒エンジンの最終形

3リッター・スーパースポーツは生産数が少ないだけに、現存数も極めて限られる。だが先日、グレートブリテン島の南部に位置するウィリアム・メドカーフ社が、ほぼオリジナル状態のシャシー番号1174をコレクションしているという情報を聞きつけた。

問い合わせると、快く取材を許していただいた。ソリッド・ブラックに塗られたボディを覗き込めば、使い込まれたレザーの内装が目に飛び込んでくる。威風堂々とした雰囲気を漂わせる。

ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)
ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)

ラジエーターは、空気抵抗を抑える目的で傾斜が付いている。その後ろで熱く燃えるのは、WO.ベントレー氏が設計した、シングル・オーバーヘッド・カムでツインプラグが与えられた、直列4気筒エンジンの最終形といえるもの。

フライホイールは軽量化され、シリンダーの圧縮比は6.3:1へ上昇。ピストンも軽量化され、SU社のタイプG5キャブレターが2基組まれた。

完成したショートシャシーは納車前テストとして、ロンドン北西部のクリックルウッドから南西部にあるブルックランズまで試走。時速100マイルが達成可能か、実際に確かめられた。

今も走行可能な3リッターは、多くが後継モデルの4 1/2が搭載した、4.4Lエンジンへ載せ替えられている。より大きい動力性能を求めて。しかし、2シーター・ボディが載った1174番には、元の3.0Lエンジンが維持されている。

過ぎた年月の風合いを失わないよう、細部まで意識が配られている。メカニズムの状態は好調。オーナーのメドカーフ氏は、英国でもベストといえるドライビングルートを、一気に約800km走らせたという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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