楽しいだけじゃない能力 ホンダ・シビック・タイプR ベスト・ファンカー:AUTOCARアワード2023

公開 : 2023.05.13 08:25

前年を振り返り、各カテゴリーでのベストを称えるAUTOCARアワード。見事、2023年に受賞した栄えある10台をご紹介します。

血統書付きのスポーツカーに迫る充足感

ベスト・ファンカーでの受賞となった、FL5型のホンダシビック・タイプR。ただし、楽しいという表現だけでは誤解を招くように思う。選出しておいて、なんなのだが。

もちろん、クルマは運転が楽しい方がイイ。ホットハッチなら、なお一層だ。硬めの乗り心地や安っぽい内装、悩ましい燃費も、鋭い回頭性や公道でも使い切れる充分なパワー、アクセルオフ時に流れるテールの挙動があれば、許せてしまう。

ホンダ・シビック・タイプR(FL5型/英国仕様)
ホンダ・シビック・タイプR(FL5型/英国仕様)

しかし、前世代に当たるFK8型のシビック・タイプRの頃から、状況は変わってきていた。ホンダは、ホットハッチのゲームチェンジャーを生み出していた。正確な操縦性と確実なロードホールディング性を備えつつ、軽快で上質で、感触が豊かだった。

少し不自然に突き出たフロントノーズと、派手なリアウイングを備えていたが、フォード・エスコート・コスワースのように、ホットハッチの新基準を打ち立てていた。2.5ボックスのシルエットで。

それはドライビング体験にも現れていた。楽しいだけではなかった。

シャシーとパワートレインには崇高な技術力が投じられ、中毒性のある喜びをドライバーに与えた。シリアスな領域にすら届いていた。価格帯が遥かに上に属する、血統書付きスポーツカーでなければ味わえない充足感に迫ってさえいた。

AUTOCARで試乗した際は、前輪駆動のポルシェ911 GT3だと表現している。それは、誇張ではなかった。

特別なシビックの総まとめのよう

果たして、最新のFL5型シビック・タイプRは、間違いなく欧州でも支持を得るだろう。2023年のライバルとガチンコ勝負させても、恐らく余裕で勝利するはず。先代のFK8型ですら、古さを感じさせなかったのだから。

FL5型は、大幅なアップデートを受けているものの、基本的には先代のメカニズムを継承している。魅力的なスタイリングで改めてその実力を証明しようと、ホンダは務めたのかもしれない。緻密なまでに、細かな改良が施されている。

ホンダ・シビック・タイプR(FL5型/欧州仕様)
ホンダ・シビック・タイプR(FL5型/欧州仕様)

各部の軽量化が図られ、サスペンションやブッシュ類が見直され、空力特性も改善された。ブレーキの冷却にも気が配られ、耐フェード性を高めている。キャンバー角を強め、ステアリングコラムは剛性を増し、トラックロッド・エンドも強化された。

K20C型エンジンはターボを改良し、フライホイールは軽量に。排気ガスはスムーズに吐き出されるようになった。素晴らしかったシフトレバーの動きは、さらに甘美さを増している。

特別なシビックのために、ホンダの技術者が最後の総まとめをしたように感じる。ホットハッチではあるが、メーカーとしての力強い声明のようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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