【11台のコレクション】オースチン・セブン 高級ブランド・ディーラーの起点 前編

公開 : 2021.07.31 07:05

1990年に始まったセブンのコレクション

しばらく経って、アンドリューが街灯へぶつかったルビーを発見した。「ラジエターは大きく変形。水漏れしていて、オーナーは廃車を考えていました。それを2ポンドで買い、自分たちで修理したんです」

「友人と兄弟の3人で1週間の休みを使い、スコットランドへキャンプに向かいました。すべての道具を積み、3人が乗ると重くてノロノロしか走りませんでしたよ」。苦笑いしながら、昔をポールが振り返る。

黒のオースチン・セブン・チャミーと小豆色のオースチン・セブン・スピーディ
黒のオースチン・セブン・チャミーと小豆色のオースチン・セブン・スピーディ

「セブンは、調子に乗れば快調に走るんです。行きはA1号線を70km/hくらいで走りましたが、帰りは80km/h前後で飛ばせました。そのセブンのナンバーはLMO 511。まだ残っているのか、気になりますね」

オースチン・セブンとの思い出は、双子の兄弟にとって忘れられないものになっている。「子供の頃のあこがれといえば、ロールス・ロイス・シルバーゴーストやベントレー・コンチネンタル、ネイピア・レイルトンといったクルマ」

「当時は、自分が実際に関わることになるとは想像もしていませんでした。すべては、オースチン・セブンが始まり。愛すべきクルマです」

ポールのコレクションが始まったのは1990年。1925年のチャミーと呼ばれるセブンが1台目だった。「オリジナル状態を重視しています。20台以上見て決めた1台。1950年代から英国南部のワイト島で過ごしていたようです」

「塗装もルーフも、レキシンと呼ばれる合成皮革の内装も、すべてオリジナルでした。フェンダーを少し塗装したくらい。セブンは複雑な部分がなく、手を加えるやりがいも大きい」

トラブルなしで4990kmをセブンで走破

「チャミーを詳しく点検し、エンジンとスプリングを支えるシャックル、プロペラシャフトをリビルドしました。今でも気持ちよく走ります。もしセブンを1台だけ残すなら、このチャミーですね」

彼のコレクションに加わった2台目のセブンは、ルビーだった。「一番初めに買ったセブンのように仕上げたかったんです。何台か見た後、極めて素の状態に近いルビーと出会いました」

オースチン・セブン・ルビー(1934〜1939年/英国仕様)
オースチン・セブン・ルビー(1934〜1939年/英国仕様)

「出荷時のまま、ボディサイドのランニングボードと内装が残っていました。妻へプロポーズした時のクルマも、このルビー。チェルシーの丘へ登る途中では、ディストリビューターが故障。でも常にスペアパーツを載せていたので、すぐに修理できました」

ポールは仕事柄、ヨルダンの砂漠を貫く道やアルプスの峠など、世界各国をロールス・ロイスで走った経験を持つ。それでも、英国北部のスコットランドはお気に入りのエリアだという。

彼の70歳の誕生日を記念し、長く所有していた1934年製のジェームズ・シルバー・ボートで、英国中を航海するという計画を考えていた。だが、非現実的だとわかったそうだ。

その対案として思い浮かんだのが、歴史的なルートで英国の海岸線沿いを周遊すること。オースチン・セブンのルビーとともに。

妻のヴァレリーも喜んで同行を決め、英国を一周できるルートを練ったポール。「トラブルもなく、4990kmを走りきりました。できる限り、1車線の狭い道を選んで」

この続きは後編にて。

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