【純EVの教科書】メルセデス・ベンツEQS 580 4マティックへ試乗 航続距離675km 後編

公開 : 2021.08.14 19:05

パワフルでラグジュアリーな純EVのEQS。広々とした車内が生む比類ない洗練性と快適性は、真のメルセデス・ベンツだと英国編集部は評価します。

空力に優れたボディに即時的なレスポンス

text:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
メルセデス・ベンツEQSに投じられたエンジニアリング水準は、極めて高い。スプリングが強めに効いたアクセルペダルを緩やかに踏み込み、路上を進み始めた瞬間から伝わってくる。

発進時からトルクが豊かで、加速は強力。即時的なレスポンスでエネルギーが放たれる。100km/h前後まで、加速度が衰えることなく速度は上昇。トランスミッションはシングルスピードだから、変速に伴う途切れもない。

メルセデス・ベンツEQS 580 4マティック(欧州仕様)
メルセデス・ベンツEQS 580 4マティック(欧州仕様)

この力強さを陰ながら支えているのが、ボディの優れた空力特性。滑らかに空気を受け流し、ドラッグは最小限。モーターのエネルギーが、空気の壁を押し開くのに浪費されずに済む。

直進性も並外れて良い。高速道路で許される速度域以上でも、安定性には唸らされる。

滑らかな加速以上に印象的なのが、減速時やコースティング時の回生ブレーキの制御方法。EQSほど効率的に、流暢に運動エネルギーを電気エネルギーに変換できるモデルは、多くは思い浮かばない。

今回の試乗では、スイスからオーストリアまで、山岳地帯を約3時間運転した。目的地に着いた時点で、まだ400kmほどの航続距離が残っていたという事実が、エネルギー効率の高さを証明している。

回生ブレーキの設定には、3段階に手動で調整できるモードと、完全自動なオートマティック・モードが用意されている。ほぼ機械的な抵抗を感じず滑走できる、グライド機能も備わる。

オートマティック・モードは特に筆者が好ましいと感じた設定。働きを忘れるほど自然で、2基のモーターが最大394psぶんのエネルギーを回収してくれる。

まったく新次元といえる上質な運転体験

さらに特筆したいのが、ドライブトレインの上質さ。運転体験の中心をなすほど、印象が強い。

試乗機会が多いだけに、純EVの静かな走行に筆者は慣れつつある。それでも、EQSの仕上がりはまったくの新次元。混雑した市街地でも、高速道路での巡航走行でも、その穏やかさには驚かされるばかり。

メルセデス・ベンツEQS 580 4マティック(欧州仕様)
メルセデス・ベンツEQS 580 4マティック(欧州仕様)

正確で滑らな操縦性が、全体の印象を引き上げる。EQSは大きく重たいサルーンだが、レスポンスの振る舞いはスポーツカーのようでもある。

ステアリングの操舵感は軽いものの、可変レシオのシステムからは充分な触覚が伝わり、運転への一体感を高める。最新のSクラスにも通じるもので、流れるように自信を持って進路を定めていける。

繊細で高品位な技術が投入されているのだろう。日常的な運転を、極めてリラックスした時間にしてくれる。

EQSには、Sクラスのように後輪操舵システムも備わる。2種類があり、試乗車には最大10度までリアタイヤの角度が変わる、より高度なシステムが搭載されていた。

59km/hを境にリアタイヤが逆位相か同位相に切られ、擬似的にホイールベースを短くしたり長くしたりすることが可能。低い速度域ではAクラスより小回りが利き、市街地での扱いやすさを高めている。

さらにドライブモードでスポーツを選ぶと、制御が積極的なものへ変化。車重からは信じられないほど、機敏にボディが向きを変えるようになる。

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