ウェルズ・ヴェルティージ 試作車へ試乗 フォード製2.0L NAをミドシップ 前編

公開 : 2021.11.16 08:25

ボディのデザインもシャシーの設計も自ら

実際、ウェルズはクラシック音楽への造詣も深い。古くからの明言に、建築は凍結した音楽である、というものがある。カタチは違っても、芸術という点で共通しているのだ。クルマのデザインも、同じものだと彼は考えている。

5年半ほど前にウェルズはデザインを仕上げ、作りかけのシャシーとともに、ボディを知人のロビン・ホール氏の元へ持ち込んだ。彼はBMWミニのシャシーや軍事的な車両開発など、多くの経験を有するエンジニアだ。

ウェルズ・ヴェルティージ・プロトタイプ(英国仕様)
ウェルズ・ヴェルティージ・プロトタイプ(英国仕様)

ボディのデザインとクルマのコンセプトは明確で、ホールも共感してくれたが、フレームの設計は充分とはいえなかった。最初から設計し直す方が簡単だったらしい。そこでCADに向かい、さらに1年半を費やした。

といっても、ウェルズは中東での事業が忙しく、ホールも別のクライアントの案件に取り組んでいた。作業はゆっくりと進み、高張力鋼板によるモノコック・シャシーと、鋼管による前後のサブフレームが練られた。

設計がまとまり、ヴェルティージが製造段階に入ったのは3年前。CADの画面だけでなく、実際にカタチにすることの難しさと重要性を、2人は良く理解していた。

ケブラーを用いた複合素材のボディは、3度も試作。このプロトタイプでは、技術力の高い地元企業へ依頼して作られている。エグゾーストはステンレス製だが、4度の試作を経ており、ホールのチームが製造を担当している。

「生産台数が少ないとしても、自動車メーカーになるには粘り強さが必要です。孤独を感じる時も珍しくありません」。とウェルズが説明する。

NA 2.0Lで最高出力210ps、車重850kg

2人はウェルズ・モーターカーズ社を設立し、ヴェルティージのサプライチェーンが構築された。例えばアルミホイールは、スピードライン社へ依頼したオリジナル品だ。まだ開発の最終段階として、苦労しそうな課題は多く残っている。

量産モデルの生産は、2022年の夏頃にソウザンにある施設で始まる予定。ホールが所有する建物のそばに、組立工場が完成するという。

ウェルズ・ヴェルティージ・プロトタイプ(英国仕様)
ウェルズ・ヴェルティージ・プロトタイプ(英国仕様)

これまでに、このプロジェクトの投資者へ提供される、ファウンダーズ・エディションが7台、試乗してくれた一般の顧客向けに5台が売れている。ウェルズ・モーターカーズ社の事業は、本格稼働が始まっているといえるだろう。

2人が作り上げたヴェルティージは、高剛性の小さな2シーター・クーペだ。車重は850kgと軽く、フォード由来の2.0L 4気筒ツインカムの自然吸気ユニットを、横方向でミドシップする。最高出力は標準仕様で210psだという。

パワーは大幅に引き上げることも可能だが、ウェルズにとっての優先事項ではない。現在の仕様でも、0-100km/h加速を4.6秒でこなし、最高速度は225km/hに設定される。まったく不足はない。

「本質であることが、喜びを生みます。速いクルマを目指していますが、恐ろしく速くはしません」。と考えを話すウェルズ。

ユニークなデザインのドライバーズシートに身体を収めると、小さなGTレーサーに乗ったような印象を受ける。とてもエキゾチックな車内だ。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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