1926年のダブルシェブロン シトロエンB12 ランドレー・タクシー 最後の現存車 後編

公開 : 2022.06.04 07:06  更新 : 2022.08.08 07:10

1452ccの直列4気筒に3速MT

1920年代のシトロエンは、運転が簡単ではない。クラシックなロールス・ロイスと同様に、新婦を快適に運ぶことは難しいだろう。「このクルマには、当時の一般的なトランスミッションが載っています。3速MTに、バックギアが付いているだけです」

「力強く発進し、ステアリングホイールも軽く回せます。ですが、ガラス窓の大きいランドレーなので重心高が高く、ボディロールは小さくありません」

シトロエンB12 ランドレー・タクシー(1926年/欧州仕様)
シトロエンB12 ランドレー・タクシー(1926年/欧州仕様)

フロントに載るエンジンは、通常のシトロエンB12と同じ直列4気筒の1452cc。ボディには、コーチビルダーのシャペル&ジャブイユ社のプレートが貼られている。

速度を落とす装置は、フロント側のドラムブレーキと、ギアボックス側に取り付けられたドラムのハンドブレーキ。サーボの付いた4輪ブレーキが装備されたのは、次期型のB14以降だった。

快適な独立懸架式サスペンションも、登場以前。楕円リーフスプリングが前後を支え、ショックアブソーバーがリア側の揺れを抑えている。

「走行可能なB12の多くには、オリジナルの足まわりは残っていません。簡単に取り外すことが可能で、わざわざ元通りの部品で直す人は少ないのでしょう。現代では役に立たないと考えて」。デ・リトルが推測する。

ブランドへの強い想いと深い友情

運転席に座り、シトロエンのタクシーを出発させる。後ろへ大きく傾き、サスペンションの柔らかさをうかがわせる。舗装が充分ではなかった1920年代の道路へ対応した、貴重なセットアップだ。

足まわりの調整段階では、サーキット走行もある程度は視野にあったようだ。「当時のハンドブックを読み返しても、締め上げるトルク値の表記はなく、サスペンションの設定にも触れられていません」

シトロエンB12 ランドレー・タクシー(1926年/欧州仕様)
シトロエンB12 ランドレー・タクシー(1926年/欧州仕様)

「そこで、古いMGと同じ手法で組んであります。クルマを水平にした状態でフリクション式のショックアブソーバーを硬く締めて、シャシーを持ち上げ、アクスルがゆっくり下がり始めるまで緩めるという方法です。それが当時の一般的なものでした」

亡くなった友人、ベイリーが抱いたビジョンの達成を目指し、デ・リトルはシトロエンB12を現代の道路環境にも耐えるクルマとして仕上げた。そして、彼が希望した通りに、英国の公道を走っている。「技術的には古いですが、今でも機能します」

ベイリーの古いシトロエンは、万人受けしないとしても、素晴らしい。それ以上に、彼のフレンチ・ブランドへの強い想いと、デ・リトルとの深い友情も素晴らしい。たとえ目には見えないものだとしても。

協力:カー&クラシック社、オクステッド・クラシック社

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジャック・フィリップス

    Jack Phillips

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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