濃密な感覚を味わう ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボールへ試乗 EVロードスター 後編

公開 : 2022.06.30 08:26

オリジナル・スポーツカーを生み出してきたヴィーズマンが手掛けるBEV。英国編集部が試作車への試乗を許されました。

最高出力の75%でも爽快に速い

クラシカルなスタイリングを持つBEVのロードスター、ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボール。発進は至ってシンプルにこなせる。

小さなドアを開き、美しく仕立てられたスポーツシートに身体を納め、シートベルトを装着。ブレーキペダルを踏みながらスタートボタンを押し、センターコンソール上のDボタンを選ぶだけ。内燃エンジンのAT車と変わらない。

ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボール・プロトタイプ(欧州仕様)
ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボール・プロトタイプ(欧州仕様)

パワートレインのレイアウトは自由度が高く、コクピットにはゆとりがある。足もとは広々していて、ペダルのオフセット量も小さい。ボディの前後には、大きな荷室も用意されている。

ヴィーズマン社が指定した試乗ルートは、南フランスのコル・ド・ヴァンスという丘陵地帯。勾配の大きい素晴らしい道が広がり、初夏の気持ちいい太陽が燦々と照りつけている。ロードスターにうってつけだ。

ただし、まだ本領は発揮できない。冷却系が完成しておらず、駆動用バッテリーを温存する必要がある。680psという駆動用モーターも回生ブレーキも、最大値までは利用できない。

回生ブレーキを最強にすれば、ブレーキペダルを踏まずにアクセルペダルの加減で発進から停止までまかなえる、ワンペダルドライブも可能とのこと。パドルを弾いて、エンジンブレーキを掛けるように速度調整も容易だという。

少なくとも、最高出力が75%に制限されていても、サンダーボールは爽快に速い。トルクを分配するような四輪駆動ではなく、ロケットダッシュ級の加速力は得ていないが、むしろ公道には適している。

クルマの繊細な操縦性を味わえる

近年の高性能BEVのパフォーマンスは、瞬間的に発生する大トルクによる、息を呑むようなダッシュ力に注目が集まりすぎているように思う。確かに2.5t近くある車体をスーパーカーのように加速させることは、偉業だといえる。

だが、ドライビング体験の喜びはそれだけではない。クルマの繊細な操縦性を味わうことの方が、より充足感は高いはず。ローンチコントロールで暴力的に加速できたとしても、必ずしも長く幸せを感じるとは限らない。

ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボール・プロトタイプ(欧州仕様)
ヴィーズマン・プロジェクト・サンダーボール・プロトタイプ(欧州仕様)

プロジェクト・サンダーボールが搭載する、プリミティブな機械式LSDと後輪駆動というレイアウトでも、不満ない加速力を生める。さらに、これまで筆者が試乗したBEVには備わっていなかった、自然なアクセルレスポンスも実現させている。

ヴィーズマン社も最新のBEVとして、0-100km/h加速を誇示する必要はあったのだろう。だが、漸進的な中間加速もストロングポイント。このまま量産化されることを期待したい。

ステアリングやブレーキ、サスペンションは、パワートレイン以上に完成から距離があるということだった。E90型BMW M4譲りのエンジンを搭載するヴィーズマンMF4が達成していた、しなやかなまとまりには、まだ届いていなかった。

それでも、ステアリングの質感はとても印象的。重み付けは自然で、フロントタイヤの状態が手のひらへ鮮明に伝わってきていた。トラクションやスタビリティ・コントロールなしに、有り余るパワーを放っても大丈夫そうだ、という自信を与えるほど。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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