100万ドルの輝き アストン マーティンDB5 メルセデス・ベンツ300SL フェラーリ275GTB 3台を乗り比べ 前編

公開 : 2023.02.12 07:05

燃料インジェクションを採用した3.0L直6

開発の指揮をとった技術者のルドルフ・ウーレンハウト氏は、パイプを組み合わせた軽量なスペースフレーム・シャシーを開発。滑らかなボディで覆い、大型サルーンの300S用パワートレインへ改良を加え、搭載することを決めた。

最高出力は約170psで、当時の競合モデルと比べて有利とはいえなかった。だが、優れた空力特性と信頼性が補完した。

メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)

ファクトリー・レーシングカーとして完成したW194型の300SLは、1952年のル・マン24時間とカレラ・パンアメリカーナという過酷なレースで優勝。北米でメルセデス・ベンツの輸入代理店を営んでいたマックス・ホフマン氏などが、市販化を強く求めた。

その要望へ応えるように、市販モデルとして生産されたのがW198型の300SLだった。空力特性ではレーシングカーより若干劣っていたが、スタイリングは魅力を増していたといえるだろう。

技術的には、新旧が混合されている。開発予算の都合から、フロントとリアのアクスルはサルーンの300Sから流用。ギア比は異なるものの、4速マニュアル・トランスミッションも同じユニットといえた。

しかし、3.0L直列6気筒エンジンには力が注がれた。こちらも基本的には300S用がベースだが、低いボンネット内に収まるよう、傾けてシャシーへ搭載。高さを抑えるためドライサンプ化され、先進的な機械式燃料インジェクションを採用している。

1295kgと軽量なスペースフレーム構造

メルセデス・ベンツの母体となるダイムラー・ベンツは、第二次大戦時にインジェクション・エンジンで多くの経験を積んでいた。300SLでは、ボッシュ社と共同開発した新しいシステムを獲得。シリンダーヘッドも専用品が組まれた。

ウェーバー・キャブレター仕様の3.0L直6エンジンもテストされ、185psを達成していた。他方のインジェクション版では改良を重ね、240psを実現している。

メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)

エンジンサウンドは、メロディアスというより勇ましい。アクセルペダルへの反応は良好。2000rpmを超えると吹け上がりが鋭くなるものの、意欲的に回転数を変化させるタイプではない。鋭敏なユニットというより、たくましい機械といった表現が似合う。

新車時に、メルセデス・ベンツが主張した0-100km/h加速は7.6秒。実際に試してみると、1度のシフトアップでその速度へ到達できる。疑いのない勢いを、今も披露する。

メルセデス・ベンツがSL、スポーツ・ライヒト(ライト)というサブネームを与えただけあって、車重は1295kgと軽い。スペースフレーム・シャシー単体の重量は82kgに留まる。対するアストン マーティンDB5は、1468kgある。

ところが、ステアリングホイールへの反応は、300SLの方が穏やか。大きなリムを回すと、フロントノーズが向きを変える前に、サスペンションがボディロールを許す。ペダルレイアウトは望ましくなく、シフトダウン時のヒール&トウは難しい。

この続きは中編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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