ベントレー・フライングスパー

公開 : 2013.08.28 18:43  更新 : 2017.05.29 19:03

そのことは走りにも言える。絶対的には長くないストローク量なのに、その中で上手にアシを動かして、しっとりとした優しい乗り心地を作っている。どこまでがタイヤの縦ばね特性で、どこまでがダンパーやばねの緩衝装置の仕事で、どこまで車体側のしからむところなのか俄かには分かりかねるのだ。確かにボディは剛く精緻にアシは動くけれど、その機械的特性がイメージできてしまうドイツ車勢とは、距離のある有機的な所作であり、仕立ての巧さを思わざるを得ない。

ちなみに、試乗に供された個体は、270km/h以上の高負荷時の指定に合わせたのか(メーカー側として当然の措置ではある)21インチ仕様だったタイヤの内圧が前後とも3.0barを越していた。その状態では、角の立ったハーシュ系の入力があったときにはサブフレームあたりから一発だけで収まる反復がブルンとあったのだが、試乗中に気がついてGSで200km/h以下の低負荷走行における指定の2.4barに下げたら、ハーシュと反復はひとつに柔らかく溶けて、目に映る姿にふさわしい優美な乗り心地と相成った。旧型フライング・スパーは後席の振動特性に関して、コンチネンタルGTという派生元を想起させるようなドライさが残存しており、新型ではそこを重点的に改善した由だが、その上積みをきちんと得たいならばタイヤ内圧の管理は必須だ。

操縦性にしてもフライング・スパーは「氏より育ち」の故事を裏書きする。いかにも4WDの仕事だと分る直進スタビリティと驚くほど回り込んでくれる旋回性を作り込んで、そこに優秀性を感じるドイツ勢に対し、フライング・スパーの4WDは終始黒子として隠れていて、直進安定と充分な旋回は有機的につながって、メカ要素のひとつひとつを水面から透けて見えるような気取らせかたはしない。前輪トルクがステアフィールを濁らすことも少ない。間違いなく意をそこに凝らしたのだろう仕上げである。

面白かったのは、625psに至った6.0W12が、春先に乗ったコンチネンタルGTのそれよりも、いかにも金属が稼働しているメカニズム感を伝えてきたこと。あちらのほうがもっとクリーミーに溶けていたような気がする。また、キャビンアコースティックがあまりに美しく整えられたためか、フロントガラスに雨が当る音が、平和な家庭への乱入者の如く耳につくことがあった。

ただし、それは些細な話である。機械を機械として論理構築に基づいて作ることに秀でるドイツ人に対して、イギリス人は与えられた材料を味の調え方の技で高みに至らせて機械にあたかも有機物のような情感を与えて我々を瞠目させる。新型フライング・スパーもまた、その好例だった。イギリス、したたかである。

(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)

ベントレーフライングスパー

価格 2280.0万円
0-100km/h 4.6秒
最高速度 322km/h
燃費 6.8km/ℓ
CO₂排出量 343g/km
車両重量 2475kg

エンジン形式 W12DOHCツインターボ, 5998cc
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 4輪駆動
最高出力 625ps/6000rpm
最大最大トルク 81.6kg-m/2000rpm
馬力荷重比 253ps/t
比出力 104ps/ℓ
圧縮比 9.0:1
変速機 8段A/T
全長 5295mm
全幅 1976mm
全高 1488mm
ホイールベース 3065mm
燃料タンク容量 90ℓ
荷室容量 475ℓ
サスペンション (前)ダブルウイッシュボーン
(後)マルチリンク
ブレーキ (前)φ405mm Vディスク
(後)φ335mm Vディスク
タイヤ 275/45ZR19

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