電動化はクラシックカーを救う? フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(1)

公開 : 2023.11.25 17:45

共感を得つつある電動化「エレクトロモッド」 クラシックカーの魅力を維持する解決策なのか 英国編集部がロンドンの中心で体験

共感を得つつあるエレクトロモッド

ロンドンでも、フィアット・ヌォーヴァ500は珍しい。子どもが指でさしながら、クルマを見ている。

青信号で走り出す。通常なら、空冷2気筒のポップなエンジン音が放たれるところだが、勢いよく無音で加速していく。「うわ、電気自動車だ」。周囲の人が驚くのがわかる。

クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)
クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)

このフィアット以上に、多くの共感を得られる見た目のクルマは少ない。パステル・ブルーのボディは、今見てもスタイリッシュでカッコイイ。BMC時代のミニも同様にクラスを超えた魅力を湛えるが、イタリアンな優雅さには及ばないだろう。

ただし、通常のヌォーヴァ500が生み出す排気ガスは、21世紀に歓迎されるものではない。でも、今回ご紹介する1台なら大丈夫。走行時はCO2を排出せず、騒音で周囲に不快な思いをさせることもない。電動化されているからだ。

今日のように、地中海沿岸を思わせる陽気の日にはピッタリ。サイドウインドウを下げ、カンバストップを後ろに巻けば、ドライバーはコミュニティの一部になれる。クルマ嫌いのご婦人も、受け入れてくれるだろう。

数年前まで、電気自動車へのコンバージョン、エレクトロモッドは、一部の人による風変わりな仕事に見られてきた。しかし、最近は共感するクルマ好きが増え、市場規模も大きく膨らんでいる。

それでも、電動化はクラシックカーの魅力を未来へ届ける本当の解決策なのか、という疑問は残る。そんなわけで、実際に小さなヌォーヴァ500 EVをお借りし、ロンドンを巡ってみることにした。

時期尚早だった電動化事業のスタート

ロンドンの西、モートレイクに拠点を置くクラシック・クローム社は、2017年からエレクトロモッドしたクルマを販売してきた。1957年に発売された、フィアット・ヌォーヴァ500をベースにして。

見た目は、可能な限りオリジナルが保たれている。今日のクルマは1967年式の500 F で、マフラーが下から突き出ていないことが、外観上の唯一の違いといっていい。

クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)
クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)

車内を観察すると、ダッシュボードの下にバッテリーの残量を示すメーターが追加されている。ハンドブレーキ・レバーの下に、電気ヒーターの効きを選ぶダイヤルが備わる。それ以外は、見慣れた景色だ。

「ロンドンで沢山のフィアット500を改造することは、素晴らしいんじゃないかと考えたんです。メディアからも関心を寄せていただきました。しかし事業は軌道に乗らず、最近はコンバージョン・キットの販売が中心です。ちょっと高すぎたのでしょう」

クラシック・クローム社を創業した、ゲイリー・ショート氏が説明する。ライバルは、内燃エンジンを積んだままのヌォーヴァ500だそうで、一般的には1万ポンド(約181万円)前後は安く購入できる。

2017年頃の価格は、2万6995ポンドだった。殆ど原価に近かったというが、最近は駆動用バッテリーのコストが上昇し、もっと高くなるだろうと話す。

現在は、ポルシェジャガーレストアレストモッドへ、事業の軸を戻している。バッテリーEVは新車でも普及のただ中にあり、クラシックカーのエレクトロモッドは、時期尚早だったのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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