間違いなく面白い154ps アバルト500eへ試乗 毎日を笑顔にするホットなBEV 後編

公開 : 2023.05.25 08:26  更新 : 2023.07.20 12:29

フィアット500eをホットに仕立てたアバルトが登場。名門銘柄を名乗る実力を、サーキットと公道で英国編集部が評価しました。

サーキットが場違いだとは感じないBEV

右足へ力を込めてコースイン。アバルト500eは、内燃エンジンで走るアバルト695ほどエネルギッシュではない。チューニング度合いもさほど高いとは感じないが、少なくとも多くのバッテリーEV(BEV)とは異なり、サーキットが場違いだとも感じられない。

積極的に運転しても、パワートレインの温度が上昇してセーブモードに入ることはない様子。絶対的な加速力はそこまで高いわけではないものの、爽快な動力性能を引き出せ、笑顔でいられる。

アバルト500e ツーリスモ(欧州仕様)
アバルト500e ツーリスモ(欧州仕様)

695と比較して、ステアリングホイールの操舵感は軽め。レシオは若干スローだが、正確性は高い。フロントタイヤの反応はシャープで、ターンインはより鋭い。最終的にはアンダーステアへ転じるものの、限界領域は高められている。

ブレーキも強力。スコーピオン・トラック(サーキット)と名付けられたサーキット向けのモードを選択すると、回生ブレーキの介入が制限される。貴重な運動エネルギーは、専らディスクブレーキが熱に変換する。

加速を続けても、スピードが増してく印象は強くない。変速を伴わない、シングルスピードのトランスミッションが影響しているのだと思う。相対的に695より速いのかもしれないが、体感的にはそう感じにくい。

エキサイティングではないにしろ、面白いことは間違いない。存分に楽しむと、航続距離は80km程度に縮まるようだ。

快適性と運転の楽しさとの絶妙なバランス

乗り心地の硬い695と異なり、アバルト500eの強みが一般道との親和性。カーブが連続する区間を気持ち良く攻め込め、正確な操縦性で狙ったラインをトレースしやすい。シャシーからの情報が濃く、ドライバーは一体感を抱きやすい。

加えて、乗り心地が大幅に改善されている。試乗車にはオプションの18インチ・アルミホイールが履かされていたが、適度なコシがありつつ強い衝撃の角は丸められ、洗練された印象。695なら、80kmも一般道を走れば疲れてしまうところだと思う。

アバルト500e ツーリスモ(欧州仕様)
アバルト500e ツーリスモ(欧州仕様)

普段使いを躊躇させない快適性と、運転の楽しさとの絶妙なバランスは、フォルクスワーゲンのGTIモデルにも通じる。痛快で没入するようなホットハッチではないものの、チャレンジングな道を目指したくなる。その道中も、快適に過ごせる。

しばらく運転した後、サウンドジェネレータはオフにした。人工的なノイズは、長時間聞いていると単調に思えてくる。アバルト500eを路肩に止め、タッチモニターのメニューを掘り下げれば、静かなBEVらしい走りも楽しめる。

ただし、その印象はそれ以外のBEVへ近いことも否定できないだろう。加速は素早く反応は瞬間的なものの、フォルクスワーゲンID.3とも遠からず。アバルトの精神が注入されても、電動パワートレインの味わいを豊かにすることは難しいようだ。

記事に関わった人々

  • マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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