【エンジンは850クーペ】フィアット600ムルティプラ リンゴットの屋上を走りたい 前編

公開 : 2021.07.25 07:05

ブルーの2トーンが美しいフィアット600ムルティプラ。850スポーツクーペ用のエンジンへコンバージョンされた1台を、英国編集部がご紹介します。

予算で買えるクルマは状態が悪い

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
フィアットの大ファンだというジョン・ヒューエット。愛車の600ムルティプラにも少なからず手をかけてきた。美しい塗装の内側には、いくつものイタリアンなトラブルが潜んでいた。

ヒューエットはエンジニアとして活躍する人物。技術的な知識と、フィアット仲間の力を借りてアップグレードを施し、ムルティプラを理想的な内容にまで仕上げてきた。仕事では、近年にわかに重要性が高まった人工呼吸器の製造にも関わっているという。

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

クラシックカーで称賛を集めた過去の成果が、アウトウニオン・タイプAの精巧なレプリカ。2012年のグッドウッド・リバイバルに出展されると、スター級の評価を集めた過去を持つ。

そんな多彩なヒューエットにとっても、2020年はロックダウンの1年だった。フィアット500を溺愛する彼は浮いた時間を使い、アウトウニオンと同じくらい魅力的で小さい、600ムルティプラのレストアを決意した。

「思い立ったのは、息子のサミュエルとのイタリア旅行から戻った直後。2人でミニミニ大作戦のロケ地を巡り、素晴らしい時間を過ごした後でした」

「当初の計画では、フィアット600ムルティプラをイタリアで見つけて、英国までドライブして帰るつもりだったんです。しかし、状態の良いクルマを見つけるのは想像以上に大変でした」

「自分の考えていた価格帯で買えるクルマは、どれも状態が悪い。でも、イタリアから運転して帰りたかった。それが可能なクルマは非常に高いうえ、現実的ではないとわかりました」

全面的な整備が必要な状態だった

「売り手名義のナンバープレートを引き受け、登録変更して送り返す約束を取り付ける必要があります。考える以上に、多くの問題をはらんでいると感じました」

諦めのつかないヒューエットは、2万5000ポンド(385万円)の予算で道の走れるムルティプラを求めて、インターネットをさまよった。最終的にたどり着いたのは、フランス側のアルプスから出品されていた、状態の良さそうな1台だった。

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

ヒューエットが振り返る。「ディーラーのド・フランス・ヘリテイジの担当者とチャットで連絡しましたが、とても親切でした。でもドライブして帰りたいと話すと、難しいだろうな、と感じているのが伝わってきました」

「長い距離を運転するのに、快適なクルマではありません。きっと好きにはなれないでしょう。地元を走るくらいなら大丈夫ですが、お勧めしません。と返事が来たのです。実際、トレーラーに積載して持ち帰りエンジンを掛けると、すぐ故障でした」

彼のムルティプラはフランスへ来る前はスペインで過ごしており、部分的にレストアを受けていた。だが相当に走り込まれた状態で、全面的な整備が必要な状態だった。

苦笑いしながらヒューエットが話す。「排気ガスはマフラーエンドではなく、ブリーザーホースから漏れてくる方が多いほど。オイルフィラー・キャップのすぐ下にホースが追加されていて、地面まで伸びていました」

「馬力も、恐らく8psくらいしかなかったでしょう。本来は20ps程ですが、到底出ている感じはありませんでしたね」

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