電動化はクラシックカーを救う? フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(1)

公開 : 2023.11.25 17:45

最高出力はオリジナルの4倍近く

「クラシックカーを路上で楽しみ続ける唯一の方法が、電動化かもしれません。しかし、わたしが生きている内はまだ大丈夫なようですね」。とショートが笑う。

ダッシュボードに刺さったキーを時計回りに回すと、電気的なハミングが聞こえ出す。これで発進準備は完了。駆動用モーターの回転をリアアクスルへ伝えるため、オリジナルのトランスミッションは残されているが、基本的にシフトチェンジはいらない。

クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)
クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)

発進は2速のままでOK。アクセルペダルを踏めば、スルスルと加速していく。バックするには、リバースへ入れる必要がある。

静かなヌォーヴァ500 EVの運転は、奇妙な体験だ。周囲の人も不思議そうに眺めてくる。パワーデリバリーは滑らかに調整され、一部のエレクトロモッド例のように、突然突き動かされるようなことはない。

アクセルペダルを踏み込むと、1秒ほどの緩やかな加速を挟んで、勢いが増していく。とても機敏に走る。

駆動用バッテリーはテスラのものが流用され、駆動用モーターの最高出力は66ps。車重は増えているが、オリジナルの4倍近くパワフルだから、カリカリに改造された内燃エンジンのヌォーヴァ500を持ってきても、加速性能では太刀打ちできないだろう。

ロータリー交差点を旋回するだけで楽しい

東へ進み、ハイドパーク手前のケンジントンを目指す。エンジン音がしないぶん、普段は聞こえないノイズが車内へ響く。トランスミッションがメカノイズを放ち、駆動用モーターのハミング音はウインカーの点滅で変化する。

ある程度スピードが増すと、足まわりやシャシーからのきしみが目立ち始める。低速域では、重いステアリングラックも唸る。駆動用バッテリーは、フロントアクスルの上。増えた車重へ対応するため、フィアット126用のサスペンションが組まれている。

 ピーター・ブラッドフィールド社のピーター氏
ピーター・ブラッドフィールド社のピーター氏

20km/h程度で、ステアリングはそこそこ軽くなる。それでも力は必要で、電動パワステが欲しくなる。レシオはクイック。狭い路地へ曲がったり、ロータリー交差点を旋回するだけで、すこぶる楽しい。

キビキビと向きを変えながら、ヌォーヴァ500 EVはサウス・ケンジントンへ。クラシックカー・ディーラーのピーター・ブラッドフィールド社の建物が見えてくる。戦前のベントレーやインヴィクタが、敷地へ並んでいる。

「もし彗星が地球に衝突する時が来たら、これらのオーナーは、最後の瞬間までステアリングホイールを握っているかも。でも、ガソリンを将来的に入手し続ける方法までは、まだ心配していません」。代表のピーター氏が笑う。

新型コロナウイルスの流行やロシアのウクライナ侵攻などを経て、今後20年間はエネルギー政策の予想は難しいだろうと彼は話す。水素の可能性も指摘する。「ガソリンは高価になり、購入も難しくなるでしょう。でも、一定の需要は残るはずです」

この続きは、フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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