「悲惨に鈍い」加速 キャデラック・セビル 能動的に選ばれた メルセデス300D ディーゼルの高級車(2)

公開 : 2023.12.10 17:46

悲惨なほど加速は鈍い 現代の水準でも静か

発進すると、セビルの洗練性へ驚く。サイドウインドウを閉じれば、エンジン音は殆ど聞こえない。微細な振動が、軽油を燃焼させている事実を伝える程度。存在感の小ささのお陰で、悲惨なほど加速が鈍くても気を揉まずに済む。

3速ATは滑らかで、変速を知覚できない。キックダウンしても、速さは変わらない。車内が僅かにうるさくなるだけだ。

メルセデス・ベンツ300D(1976〜1984年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300D(1976〜1984年/英国仕様)

88psの300Dも、速いわけではない。それでも400kg軽く、意外にキビキビと走る。4速ATは、ディーゼルエンジンが発生する17.5kg-mのトルクに備えて強化されている。2速ではなく、1速で発進するよう調整も受けている。

操縦性と乗り心地は、筆者の記憶にあるW123型と異なる。ステアリングの反応は、メルセデス・ベンツらしく正確だが。

コイルスプリングは強化され、車高は通常の300Dから40mmほど持ち上げられている。滑らかに路面をいなし、速度抑制用のスピードバンプを見事になだめる。

キャデラック初の独立懸架式サスペンションを備える、セビルの乗り心地も素晴らしい。ロードノイズの小ささでは、上回るかもしれない。現代の水準でも、静かと表現して良いだろう。インテリアの製造品質は、300Dに及ばないが。

ステアリングホイールは軽く回せ、路面の感触もある程度伝わってくる。アメリカ車でありながら、レスポンスも悪くない。前輪駆動のパワートレインと、キャデラックとしては小さめのボディロールで、コーナリングには安心感が伴う。

北米市場で有利に振る舞えたメルセデス

1980年から1986年までの間に、セビルは約20万台がラインオフした。商業的には成功したといえるが、ディーゼルエンジンが評価を大きく下げてしまった。歴代のキャデラックの中で、最も低迷したモデルかも知れない。

アメリカの高級ブランドが長年掲げてきた、「世界水準」という達成目標には届いていなかった。豪華装備な大型モデルのスタイリングを毎年リフレッシュするという、数10年間続いた手法は、ドイツ勢の台頭で通用しなくなっていた。

キャデラック・セビル(1979〜1986年/欧州仕様)
キャデラック・セビル(1979〜1986年/欧州仕様)

対象的に、300Dは秀でた技術を比較的シンプルな構成でまとめ、安全性や耐久性が追求されていた。マーケティングを活用しつつ、飾り立てることなく、優れたエンジニアリングで高い価格を正当化させている。

キャデラックは、顧客が望むクルマを提供した。メルセデス・ベンツは、顧客の好みの一歩先を示し、潜在的に望まれるクルマを提供したといえる。

ディーゼルの高級車が徐々に一般化していく北米市場で、有利に振る舞えたのはメルセデス・ベンツだった。刺激は控えめでも、W123の300Dをユーザーは能動的に選んだ。

時速55マイル(約88km/h)の制限速度下では、充分な動力性能でもあった。その点ではセビルも不足なかったといえるが、信頼性の問題は小さくなかったはず。

実際に運転してみると、セビルは見た目以上にいいクルマだと思える。ガソリンで動くV8エンジンなら、期待へ応えるキャデラックになったことだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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