「大胆なスピリット」は入れ替わった ボルボEX30と技術を共有 スマート#3へ試乗(1)

公開 : 2023.12.12 19:05

新体制での量産車第2段となる#3 プラットフォームはボルボEX30と同じSEA ワインディングを楽しめる操縦性 詰めの甘い部分も少なくない 英国編集部が評価

個性的で大胆なスピリットは入れ替わった

見た目は悪くない。だが、客観的に評価すると疑問も残る。それが、新しいスマートの#3だ。

メルセデス・ベンツジーリー・ホールディングスの合弁ブランドとして再興したスマートは、もはや革新的なブランドではないのかもしれない。再編に伴い、個性的で大胆なシティカーを提供していた時代のスピリットも、入れ替わってしまったようだ。

スマート#3 プレミアム(欧州仕様)
スマート#3 プレミアム(欧州仕様)

新体制下での初の量産モデルを、電動コンパクト・クロスオーバーとした彼らの決定は理解できる。市場のニーズは小さくない。遅かれ早かれ、提供されるであろう複数のモデルの1つに、#1は加わっていたはず。

しかし、BMW iX1やプジョーe-3008などのライバルとなる#3に、革新という言葉は似合わないだろう。周囲とは異なるスマートらしさは、#1以上に感じにくい。数ある中型SUVの中で、スタイリングの個性も強いとはいえないと思う。

スマートは、過去よりメジャーで、周囲を意識したブランドになろうとしている。「中国では、ライバルのマネをすることが競争力を示す方法の1つです。デザインや技術を模倣することへ、強い抵抗はありません。むしろ推奨されています」

メルセデス・ベンツの従業員だったスマートの関係者は、筆者へそう話した。創造的になることが難しい社風なのだという。

果たして誕生した#3は、既存モデルの要素が巧みに融合されている。確かにまとまりは良く、魅力的に映る。しかし、それでは独自の個性を生み出すことはできない。ハンサムかもしれないが、迎合的。スマートとは呼びにくい。

プラットフォームはボルボEX30と同じSEA

恐らくジーリー・ホールディングスは、スマートのメルセデス・ベンツ化に満足している。アウディセアトアルファ・ロメオフィアットとの関係に、少し似ている。

インテリアにも、社内デザイナーの姿勢が現れている。メルセデス・ベンツより若々しいブランドとして、従来まで実現できなかった領域をカバーする目的があるのだろう。#3のターゲットは、#1より若い層だと主張される。

スマート#3 プレミアム(欧州仕様)
スマート#3 プレミアム(欧州仕様)

これまでのスマートは、コンパクトさとシンプルさ、機能性が、特徴的なデザインで表現されていた。視線を集める見た目や、知覚品質以上に。そんな過去を、思わず懐かしんでしまう。

さて、#3が基礎骨格とするのは、ボルボEX30なども採用するSEAプラットフォーム。ベーシックなシングルモーターでは、最高出力271psがうたわれる。前後アクスルに1基づつ載るツインモーターの#3 ブラバスでは、2基合計で428psを発揮する。

駆動用バッテリーは、49kWhか66kWhの2種類から選択可能。スムーズな面構成と、#1より約80mm低い全高のおかげで空力特性に優れ、航続距離は後者の容量で455kmが主張される。クラストップの数字ではないものの、充分な競争力はある。

急速充電能力は、49kWhで最大130kWまで。66kWhでは150kWまで対応する。

車内空間は、滑らかなルーフラインから想像するほど狭くない。着座位置が低く、身長の高い大人が座っても、リアシート側でも膝前や頭上に充分な余地が残る。荷室も広い。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

スマート#3へ試乗の前後関係

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