アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(2) 聖地のバンクを包むスーパーチャージャーの唸り 10年に及ぶ作業で復元

公開 : 2026.10.11 17:50

100年前、英国初のGPを戦ったアストン マーティン・ハルフォード・スペシャル。エンジンはドライバー自ら設計した1.5L 6気筒ターボです。UK編集部が10年の作業を経て復元された、貴重なレーサーをご紹介します。

スーパーチャージャー・ノイズの圧倒的な主張

「スーパーチャージャーの唸るようなノイズが、圧倒的な主張を放ちます。彼が単独で参戦していたことを踏まえれば、その健闘ぶりは際立ちます」と当時のAUTOCARは、アストン マーティン・ハルフォード・スペシャルの走りを伝えている。

1926年のRAC英国ブランプリへ3台で挑んだドラージュ勢は、熱処理に大きな問題を抱えていた。レギュレーションで追加されたエグゾースト・サイレンサーがペダルへ近く、ドライバーは頻繁にピットインし、水で脚を冷やす必要があったのだ。

アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)
アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ハルフォード・スペシャルは、55周目で給油とタイヤを交換。先頭集団から約2.4km後方で、ブレーキレバーを片手で操作しつつステアリングを回す操縦系と、フランク・ハルフォード氏は格闘を続けた。ブガッティは、70周目もリードを保っていた。

だがその後、1速へのシフトダウンへもたつく様子をAUTOCARは報じている。「苦労してギアは入ったものの、エンジンは空回りし、駆動力が伝わらなくなりました」

10年に及ぶ作業を経て蘇った忠実な姿

ハルフォードは、ピットまでマシンを押し修理を試みるが、そのまま離脱。83周を走り、リタイア車両中の最上位という結果で終わった。ユニバーサルジョイントが破損するほど、オーバーパワーだったらしい。栄えある優勝は、ドラージュが奪っている。

1927年に、ハルフォード・スペシャルは再びジョージ・エイストン氏のもとへ。ブルックランズ・サーキットで2つのレースを競い、フランス・グランプリでは5位入賞を果たしている。だが1928年には、予備エンジンと共に貴族のリドリー家へ売却される。

アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)
アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

しばらく行方不明となるが、アストン マーティンのコレクターで、現オーナーのジェームズ・チェイン氏が1970年代に入手。レストアへ着手される。2シーター・ボディの再現は、ニック・ジャーヴィス氏へ託された。

予備エンジンは、ボートに流用されていた1基を発見。10年に及ぶ作業を経て当時の姿は忠実に蘇り、アストン・マーティン・オーナーズ・クラブが1981年に主催した、ウィズコム・ヒルクライム・イベントでお披露目されている。

無駄が削ぎ落とされ端正なボートテール・ボディ

無駄が削ぎ落とされた、端正なハルフォード・スペシャルのボディは、巧妙にアストン マーティンのシャシーを包む。排熱用のルーバーが無数に切られたボンネット・パネルと、細く伸びたボートテールが特徴だろう。

エグゾーストパイプはドライバー側に伸び、三角形のファンテールから排気される。巨大なステアリングホイールを避けるように、コクピットへ身体を収める。バケットシートはレザー張り。メーターやスイッチが、少し雑然と並ぶ。

アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)
アストン マーティン・ハルフォード・スペシャル(1923年/ワンオフマシン)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ブースト圧と気圧、油圧の補助メーターは、助手席側。運転席からは、レッドゾーンが5500rpmからの、タコメーターだけが良く見える。真鍮製の小さな2つのダイヤルで、ブレーキバランスは調整できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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