キーマンたちが語るベントレー初のEV『トルカル』(前編) 新しいデザイン言語をどう解釈すべきか【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #9】

公開 : 2026.10.20 11:45

戦前に採用されていたテールエンドの処理

伝統とモダンの融合はリアエンドでも図られている。

トルカルのテールゲートは、リアウインドウ部分で急降下したあと、幅20cmほどにわたって水平に伸びる部分があり、そこから再び垂直に裁ち落とされている。この水平に伸ばされた部分こそ、トランクルームを稼ぎ出すために戦前のリムジンやクーペで採用されていたテールエンドの処理にならったものだという。

伝統とモダンの融合はリアエンドでも図られている。
伝統とモダンの融合はリアエンドでも図られている。    ベントレー

その一方で、テールゲート周りの面処理は丸みを帯びた現代的なものとされている。直線的なデザインでやや素っ気なく見えるテールライトの形状も、企業のブランドロゴやスマホのアイコンを2D化することでモダンな雰囲気を得ているのと同じ手法といえば、皆さんにもすっと呑み込んでいただけるのではなかろうか。

そうした中で、特に秀逸と評価したくなるのが、前述したホーンチラインからテールゲートへと続く曲面の処理である。

リアフェンダー周りの分厚い張り出しが、テールゲートに向けて90度向きを変えつつ、こちらも前述したテールゲートの水平部分へと流れるようにつなげられたデザインは、動物的な力強さと洗練さが無理なく融合されており、トルカルのスタイリング上のハイライトとなっている。これほど美しい3次元的なデザインは、滅多に見られるものではない。

物議を醸し出しそうなフロントエンド

その一方で物議を醸し出しそうなのが、フロントエンドのデザインである。

トルカルはEVゆえに、一般的にフロントグリルとされる部分が塞がれている。ここをロビン・ペイジらは、クリスタルを思わせる小さなパーツを数多く並べるとともに、そこに光をあてることできらびやかな雰囲気を作り出したのである。

物議を醸し出しそうなフロントエンドのデザイン。
物議を醸し出しそうなフロントエンドのデザイン。    ベントレー

その手法は、2025年に発表されたコンセプトカーの『EXP15』とよく似ているが、独立した透明のパーツを数多く並べたという点において、トルカルのほうがはるかに手が込んでいるとともに、その印象は強烈だ。

私は、自動車の新技術や新しいデザイン手法をできるだけポジティブに受けとめることを常日頃心がけているが、そんな私にも、このフロントグリルの処理は奇抜で、トルカルのしっとりとして落ち着いたデザインに馴染んでいないように思えた。少なくとも、現時点においては……。

もっとも、自動車界全体が大きな変革期を迎えている中、自動車デザイナーたちも試練の時期を迎えているように思う。

今回のイベントが始まる直前、顔見知りのベントレー広報部員が私に話しかけてきた。そして話題は、その3週間前に発表されたフェラーリ・ルーチェのデザインが非難の嵐にさらされていることへと自然と向かっていったのだが、そこで彼は「自動車デザイナーの多くは新しいデザインを発表することに怯え始めているかもしれない」との主旨のことを口にしたのである。

*キーマンたちが語るベントレー初のEV『トルカル』(後編)に続きます。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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