本物の楽器の音を収録した新サウンド キーマンたちが語るベントレー初のEV『トルカル』(後編)【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #9】

公開 : 2026.10.20 11:50

エンジニアと自動車専門誌編集者という経歴で膨大な取材量を持つ大谷達也による、『どこにも書いていない話』を執筆する不定期連載です。第9回は、ベントレー初のEVとして登場した『トルカル』を取り上げます。

自動車デザインの進化が求められている

顔見知りのベントレー広報部員が口にした、「自動車デザイナーの多くは新しいデザインを発表することに怯え始めているかもしれない」という言葉を耳にして、私はなるほどと思ったが、自動車デザインの進化が求められているのもまた事実だろう。その一方でブランドの伝統を蔑ろにすることは許されない。

そこで私は、チーフデザイナーのロビン・ペイジに「ブランドのヘリテイジと新奇性の両方をバランスさせることが、現代の自動車デザイナーに求められている仕事ではないか?」と訊ねてみることにした。

9月26日にロンドンで発表されたベントレー初のEV『トルカル』。
9月26日にロンドンで発表されたベントレー初のEV『トルカル』。    ベントレー

「確かにそうですね」とペイジ。「ブランドにとって意義があり、それと同時でモダンで先進的なものをデザインすることこそ、私たちに課せられた責務であると考えています。その際に基本となるのは『何をもってベントレーとするか』という原則を確立させるとともに、それをモダンかつ先進的な手法で表現することでしょう。具体的な造形はもちろんデザイナーの手に委ねられることになりますが、私自身はこれが正しいアプローチであると信じています。

すなわち、ひと目でベントレーであると認識してもらうと同時に、モダンなデザインでもあること。単に『現在のトレンドだから』という理由だけで、いかにもEV的なデザインのクルマを作りたくはありませんでした。私たちが目指したのは、ブランドの新たな一歩に相応しい明確なメッセージを打ち出すこと。それが私の下した決断でした」

例外なく出世するベントレーのチーフデザイナー

話は前後するが、1995年からベントレーのインテリアデザインを指揮していたペイジは、2013年にいったんベントレーを離れ、ボルボに転職。そこでチーフデザイナーまで勤め上げた後、2023年にベントレーのチーフデザイナーに就任したことが発表された。

ベントレーのチーフデザイナーについては、ちょっと面白いエピソードがある。

2023年にベントレーへ復帰しチーフデザイナーに就任したロビン・ペイジ。
2023年にベントレーへ復帰しチーフデザイナーに就任したロビン・ペイジ。    ベントレー

同社のチーフデザイナーといえば近年ではステファン・ジーラフの名が広く知られていたはず。彼は2015年7月から2021年2月までの長きに渡って同職を務めたが、その後任を務めたのがアンドレアス・ミント。

ただし、ミントの在職期間は2年弱と短く、2023年1月にはトビアス・シュールマンがチーフデザイナーの役職を受け継いだ。しかし、シュールマンは就任わずか4ヵ月でこの役職から離れてマクラーレンに移籍。直後の2023年5月26日にベントレーのチーフデザイナーに任命されたのがロビン・ページだった。

興味深いのは、ベントレーの元チーフデザイナーが例外なく『出世』していることだ。

ジーラフは現在ジーリーのグローバルデザイン担当バイスプレジデントを務めているほか、ミントはヘッド・オブ・フォルクスワーゲン・グループ・デザインに抜擢。そしてシュールマンは2026年1月にヘッド・オブ・デザイン・アット・ポルシェに就任した。ベントレーのチーフデザイナーという役職には、恐ろしく重要な価値があるようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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