キーマンたちが語るベントレー初のEV『トルカル』(前編) 新しいデザイン言語をどう解釈すべきか【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #9】

公開 : 2026.10.20 11:45

エンジニアと自動車専門誌編集者という経歴で膨大な取材量を持つ大谷達也による、『どこにも書いていない話』を執筆する不定期連載です。第9回は、ベントレー初のEVとして登場した『トルカル』を取り上げます。

伝統と新時代に向けた新しい表現が共存

ベントレーは9月26日に初のEV『トルカル』をロンドンで発表したが、私はその3ヵ月以上も前の6月17日に、英国クルーのベントレー・デザイン・スタジオで開催されたトルカルのスネークプレビューに参加。

トルカルの実車をいち早く目の当たりにするとともに、チーフデザイナーのロビン・ペイジ、そしてプロダクトラインディレクターのマーティン・ペイジから説明を受ける機会を得た。

9月26日にロンドンで発表されたベントレー初のEV『トルカル』。
9月26日にロンドンで発表されたベントレー初のEV『トルカル』。    ベントレー

トルカルでなんといっても重要なのは、そのデザインである。これがベントレーの新しいデザイン言語で、エンジン車かEVかに関わらず、今後発表されるベントレーの全モデルに採用されることは既報のとおりである。では、この新しいデザイン言語をどう解釈すべきか。まずはこの話題からお届けしよう。

トルカルにはベントレーの伝統的な部分と、新時代に向けた新しい表現の両方が共存すると私は捉えている。

伝統的な側面は、そのプロポーションに明確に表れている。現代の自動車デザインとしてはボクシーで、強固なカタマリ感を伝える全体的な造形こそ、ベントレーらしいプロポーションといえるのではないか。

垂直に切り立ったフロントマスク、短いフロントオーバーハング、長いボンネットなどもベントレーの伝統的なデザインモチーフであり、これらが一体となって、遠くから見てもひと目でベントレーとわかるプロポーションを生み出している。この点をロビン・ペイジに指摘すると「まさにそのとおりです」と同意してくれた。

新しく導入されたデザイン手法

一方で、トルカルで新しく導入されたデザイン手法も少なくない。

まずは、モダン・ベントレーのトレードマークでもあったシャープなキャラクターラインがことごとく取り払われ、ボディのエッジはいずれも柔らかな曲面で覆われるようになった。ボンネットからフロントフェンダーにかけての曲面などはその代表で、シャープなエッジがなだらかな弧に置き換えられている。

ボディのエッジはいずれも柔らかな曲面で覆われるようになった。
ボディのエッジはいずれも柔らかな曲面で覆われるようになった。    ベントレー

ただし、この曲率の設定が絶妙で、遠目から見ると直線的に見えるのに、近寄って見ると穏やかな曲線とされていることに気づくだろう。こうすることで『ひと目でベントレーとわかるプロポーション』と『柔らかな曲面』を両立させたのだ。

シャープなキャラクターラインを廃して柔らかな曲面でボディパネルを構成するのは、ドイツ系プレミアムブランドなどでよく見られる最新のデザイントレンドと呼ぶべきもの。言い換えれば、こうした曲面がトルカルに現代的なフレーバーをもたらしている。

同様の考え方は、こちらもベントレー伝統のホーンチラインにも適用されている。

ホーンチ(haunch)とは人や動物の臀部、つまり尻のこと。ベントレーは、例えばライオンやトラのようなネコ科の大型動物に見られる、後ろ脚の付け根部分の分厚い筋肉を模した曲面をリアフェンダー付近に採り入れることで、後輪で力強く大地を蹴り出し、素早く加速していく姿を視覚的に表現してきた。

そのホーンチラインがトルカルにも採り入れられているが、近年のフライングスパーやコンチネンタルGTに比べるとそのエッジはまろやかで、現代的なフレーバーと、動物を連想させる有機的な曲面を一体化させることに成功している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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