本物の楽器の音を収録した新サウンド キーマンたちが語るベントレー初のEV『トルカル』(後編)【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #9】

公開 : 2026.10.20 11:50

サウンドに対するベントレーの答え

最後に、トルカルのサウンドについて少しだけ紹介しておきたい。

伝統あるブランドがEVを投入する際、常にサウンドの演出が話題になる。あるブランドは電子的に合成したサウンドでエンジン音を置き換えたかと思えば、別のブランドはモーターが発するかすかなノイズを増幅してエンジン音の代役としている。

本物の楽器の音を収録し、エンジン音に変わるサウンドを作り上げた。
本物の楽器の音を収録し、エンジン音に変わるサウンドを作り上げた。    ベントレー

もちろん、サウンドの演出は一切行わないブランドも存在する。いずれにせよ、議論の焦点はそのサウンドが本物なのか偽物か、または自然なのか違和感を抱かせるものなのかといったことに集中する。

では、ベントレーはどうしたのか。

彼らは歴代ベントレーに数多く搭載されてきたかつてのV8エンジンにこそブランドのルーツがあると考え、そのサウンドによく似たドラム、ビオラ、ベースギターといった本物の楽器の音を収録。これらを元にしてエンジン音に変わるサウンドを作り上げたという。

「無意識のうちにクルマの挙動を把握できる音」

この結論にいたった経緯を、プロダクト・ライン・ディレクターのマーティン・ペイジが教えてくれた。

「私たちが求めたのは、ドライビング体験に真の価値をもたらす走行音です。つまり、ドライバーが耳にすることで、無意識のうちにクルマの挙動を把握できる音を作り出そうとしたのです。

打楽器の学校に行き、伝統的なV8エンジンのパターンをドラムで演奏してもらったという。
打楽器の学校に行き、伝統的なV8エンジンのパターンをドラムで演奏してもらったという。    ベントレー

そのサウンドはV8エンジンを基本にしたものであると定義した私たちは、続いて、それをどう実現するかについて議論しました。往年のV8エンジンのエキゾーストサウンドを録音し、それを再生する手法も検討しましたが、これは『本物らしさ』が欠けていました。

また、ベントレーは木材やレザーを用いたクラフトマンシップ大切にしてきたブランドです。そうしたスピリットをデジタル時代に採り入れるにはどうしたらいいか。そこで思いついたのが、V8エンジンに似た音色の楽器で走行音を再現するというものでした。

私たちはまず打楽器の学校に行き、そこで伝統的なV8エンジンのパターンをドラムで演奏してほしいと頼みました。つまり、V8エンジンの燃焼パターンをドラムで再現しようとしたのです。結果としてできあがったサウンドは、人間が演奏したものなので、『自然な不完全さ』というべきものになりました」

アナログとデジタル、そして伝統と未来。その狭間に立つのがベントレー初のEV、トルカルなのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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