特別の中の特別 4世代のBMW M3を振り返る  スポーツ・エボ/GT/CSL/GTS 後編

公開 : 2022.06.18 07:07

サーキットの走行会がターゲット

もちろん、今回のオレンジ色のM3 GTSのフロントにも納まっている。カーボン製ルーフも標準装備だった。E46型M3 CSLの流れをくむ、ハードコアな容姿に仕上がっている。

この頃には、BMW M社の重要性も高まっていた。モータースポーツ以外での、公道でのアイデンティティも明確化されていた。それを受けて、GTSもツーリングカー選手権が前提ではなく、ファンによるサーキット走行会へターゲットが向けられていた。

BMW M3 GTS(E92型/2010年/英国仕様)
BMW M3 GTS(E92型/2010年/英国仕様)

既にパワフルな自然吸気のS65型V8エンジンは、4.0Lから4.4Lへと拡大。30psと4.1kg-mが上乗せされ、450psと44.8kg-mを発揮した。軽量なチタン製サイレンサーを備えたエグゾースト・システムは、素晴らしい咆哮を放った。

パワーアップと同時にリア・サブフレームも強化され、専用サスペンションで車高はダウン。フロントブレーキは、6ポッドのキャリパーが強力に挟む。

ドアを開くと、軽量なバケットシート以前に、ハードコアなロールケージが目に飛び込んでくる。ダッシュボードにはカーボン製トリムが大胆に用いられるが、センターコンソールは飾り気がない。ふんだんなスイッチ類は、2000年代後半のBMWらしい。

E92型M3 GTSのパフォーマンスは巨大。一般的な公道では発揮しきれない。アクセルペダルとステアリングホイールは、過敏にすら感じられる。サスペンションは硬く、常にソワソワと落ち着かない。

公道で乗れるレーシングカーといえるCSL

それでも滑らかな環境に出れば、M3 GTSの本領に迫れる。V8エンジンがエネルギーを爆発させ、タイトなシャシーが目覚ましいグリップ力を発揮し、デュアルクラッチATが迅速にシフトチェンジを繰り返す。

4.4LのV8エンジンは期待するより静かだが、レブリミット間際で響かせる雄叫びには酔いしれてしまう。特別なM3 GTSをすべてを発揮するには、サーキットが必要だ。2010年の発売と同時に、135台という限定数はすぐに売り切れたという。

ガンメタルのBMW M3 CSL(E46型)とオレンジのBMW M3 GTS(E92型)
ガンメタルのBMW M3 CSL(E46型)とオレンジのBMW M3 GTS(E92型)

1986年以来、BMWは20万台以上のM3を販売してきた。Mモデルへの信仰の厚さを物語る数字だといえる。

E36型のGTとE92型のGTSも、それぞれの時代背景を反映し、完成度は高い。とはいえ、BMWモータースポーツ社による実戦に向けたシリアスさを堪能できたE30型は、歴代のM3でもひときわ特別だろう。唯一、E46型のCSLを除いて。

公道で乗れるレーシングカーといえる性格付けが、他では得られないスリリングな体験を与えてくれる。しかも、過去最高と評すべきストレート6が納まっている。自宅へ連れて帰りたいM3は?と聞かれたら、E46型のCSLだと筆者は答えるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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