あえての不完璧ボディ アストン マーティンDB5 普段使いのこだわりレストア 前編

公開 : 2023.05.13 07:05

ボアアップで4.7Lへ排気量は拡大

レストアで課題になったのが、オリジナルの塗装をいかに残すか。理想的に仕上げるには、ボディパネルを完全にバラす必要があった。だが、日常的に乗れるアストン マーティンとするため、細かなダメージはそのままにしたかったという。

腐食したアルミニウム製のサイドシルは交換され、オリジナル状態へ似せた色で塗装されている。フロントフェンダーの凹みは、外したパネルの内側から職人が2週間かけて優しく叩き出した。熱が加わると、変質する恐れがあったためだ。

アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)
アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)

メカニズムでは、気軽に乗れるための多くの変更が加えられている。直列6気筒エンジンは、RSウィリアムズ社によるリビルドを経て、4.0Lから4.7Lへ排気量が拡大された。彼のDB4にも、同様のチューニングを受けたユニットが載っているそうだ。

ボアアップで700ccを稼ぎ出し、最大トルクは39.7kg-mから45.5kg-mへ上昇している。この変化は、路上を走り出すとすぐに気が付く。過去の記憶をもとに、初めは登り坂の入り口でシフトダウンしていたが、そんな必要はまったくなかった。

グレートブリテン島の南部、バークシャー丘陵をトップギアで駆け上っていく。スピードを落とすことなく。それでいて、低回転域のトルクだけが優先されたユニットではない。

細身で長いシフトレバーは軽く動かせ、やや重めのクラッチペダルは直感的につながる。5速のまま郊外の道をまかなえる粘り強さは、グランドツアラーとして望ましい。シートは快適で荷室容量も大きい。ストレスは皆無だ。

金管楽器のような甲高いサウンド

もちろん、興奮も味わえる。DB5は運転するより眺めていた方が充足感を得られる、という話も耳にするが、ロドニーの例では違う。もっともそれは、高価なアストン マーティンを買うことが難しい、多くの人を慰めるための評価でもあったのだが。

DB5へ相応しい郊外のルートでは、その楽しさにハマってしまう。緩やかなカーブや起伏を、流れるようにこなしていく。

アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)
アストン マーティンDB5(1963〜1966年/英国仕様)

ノーマルより車庫はわずかに低く、コーナーでのボディロールは控えめ。ステアリングホイールへは不足ない情報が伝わり、シャシーとコミュニケーションが取りやすい。

ストレートが見えたら、アクセルペダルを思い切り蹴飛ばせる。リアタイヤのグリップ力へ、不安はみじんもない。

コーナーの手前で早めにブレーキをかけ、パワーを加えながら旋回していくという喜びも味わえる。直列6気筒エンジンからは、金管楽器のような甲高いサウンドが放たれる。変速するたびに音色が変化し、聴覚的にも楽しい。

ドライビングポジションは、外から想像する以上に低い。ダッシュボードの位置も高くない。長いボンネットを先端まで見渡せ、サイズ感覚が掴みやすい。

操作方法に特別なことがあるわけでもなく、運転しやすいと表現していい。前方視界は良好で、全幅は1676mmとスリム。車線の中央を維持しやすく、親しみやすい。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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