まるで遊園地の乗り物:KR200 衝撃吸収ゾーンは自分の足:イセッタ 完璧主義なバブルカー・マニア(2)

公開 : 2024.04.28 17:46

自他ともに認める強いコダワリを持つ英国のバブルカー・マニア 30年も手を加え続けてきたイセッタ レストアに11年を費やしたKR200 極小の2台を英国編集部がご紹介

ドアと一緒に動くステアリングホイール

デイブ・ワトソン氏のガレージへ戻ったBMWイセッタ 300は、すぐに分解。細かな粒子を当てて削るサンドブラストで塗装を剥離し、本来の色へ塗り直された。

ただし彼は、オリジナル以外の仕様を許すルールを決めている。「錆びない方が良いですよね。ハンドブレーキのケーブルなどは、ステンレス製に改良してあります」。長い年月を費やしながら、小さな作業を積み重ねてきた。

BMWイセッタ 300(1957〜1964年/英国仕様)
BMWイセッタ 300(1957〜1964年/英国仕様)

もちろん見た目だけでなく、快調に走る状態にもある。ワトソンは、筆者へイセッタのキーを貸してくれた。

ボディの前面が大きく開く、イセッタへの乗り降りは簡単ではない。うまく座るコツは、フロアへ後ろ向きに1度立って、その場で身体を回転させ、シートへお尻を落とす方法だと彼が教えてくれる。確かに、座りやすい。

イセッタで面白いのが、ドアと一緒に、ステアリングホイールもコラムごと動くこと。ステアリングのリムを引っ張れば、ドアを閉められる。ドアハンドルも付いているが、この方がしっかりラッチが噛んだことを確認しやすい。

ボタンを押すと、スネアドラムをワイヤーブラシで激しく叩くような、298cc単気筒エンジンのビートが響き出す。ボディ側面の、スリットから突き出たシフトレバーはHパターン。ただし左側が3・4速、右側が1・2速で、通常とは逆だ。

クラッシャブルゾーンは自分の脚

慣れるまで選びにくいが、レバーは軽く扱いやすい。足元には、前例ないほど小さなペダルが3枚。数回エンストしたかわりに、癖を学べた。ワトソンはメッサーシュミットKR200に乗り、後ろからついてくる。

オーナーズクラブの助言を無視し、彼はイセッタの4速MTを自分でリビルドした。「サスペンションをバラし、エンジンとトランスミッションを降ろしました。すべて掃除して、組み直そうと考えたんです」

BMWイセッタ 300(1957〜1964年/英国仕様)
BMWイセッタ 300(1957〜1964年/英国仕様)

ところが、完璧主義が許さなかった。「最終的に、エンジンとミッションをリビルドしていました。触らない方が良いと沢山の人から忠告されましたが、ちゃんと綺麗にできなかったんですよ」

イセッタの4速MTは基本的に壊れにくく、構造は複雑。手を付けないのが一番というのが、マニア間での常識だった。

とはいえ、熱心なアメリカ人がインターネット上にリビルド方法を載せていた。彼は3回やり直しつつ、それに沿って組み上げたという。クラッチベアリングの向きが違っており、リビルド後は遥かに静かになったとか。

ゆったり速度は増し、80km/hへ。ボンネットは存在せず、クラッシャブルゾーンは自分の脚だ。スピード感が高く、それ以上加速したいとは思えない。

カーブへ侵入すると、ボディが大きく傾く。コーナリングスピードは、ドライバーの勇気に依存する。フロントアクスルの真上に座っているが、ステアリングは小気味いい。車重は軽く、反応は素早い。

リアタイヤが1本なことには、気づきにくい。乗り心地は快適。とはいえ、速度域の低い市街地での走行が最適だろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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