予定外の参戦　栄光の1959年

全5戦中、3戦におけるベストリザルトだけが有効とされていたチャンピオンシップポイントにおいて、すでにアストンはふたつの勝利を上げており、最終戦の舞台となったのが、DBR1とは相性が良いとされていたグッドウッドだったために、彼らはエントリーを決断しているが、レース開始時点では、アストン マーティンにも、フェラーリにも、そしてポルシェにもタイトル獲得のチャンスが残されていた。

チームメイトのロイ・サルバドーリとドライバー交代を行うまでに、スターリング・モスは、すでに大量リードを奪うことに成功しており、次の給油ストップで、サルバドーリとマシン、そしてアストン マーティンのピットが炎に包まれるまでは、すべてが順調だったのだ。

幸いにも、少しの火傷を負っただけでロイは難を逃れたが、マシンはレース続行不可能な状態であり、ピットそのものを失ってしまったいま、まさに万事休すかと思われた。

だが、彼らにはまだチャンスが残されていた。少し先のピットでは、アストンの顧客でありレーサーのグラハム・ホワイトヘッドがこのレースを戦っていたが、アストンは、彼にレースを止めて、ピットを譲ってくれないかと持ち掛けたのだ。

驚いたことに（生涯アストンのモデルに無料で乗る権利と引き換えだと信じたい）、ホワイトヘッドはこの申し出を受け入れ、その結果、レースに復帰することに成功したアストンに必要だったのは、ドライバーであり、そして勝利そのものだった。だからこそ、モスに白羽の矢が立ったのだ。

アストン勢で2番手を走行していたマシンは下位に沈んでおり、ピットインを指示されると、このマシンのステアリングは、そのままモスへと託されている。

そして、モスは彼にしか出来ないこと、つまりポルシェとフェラーリよりも先にチェッカーフラッグを受けるだけでなく、世界スポーツカー選手権のタイトルをも奪取することに成功したのだ。

この勝利によって、1959年という年は、アストン マーティンのレース活動において、史上最も成功した年となった。

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