細かな改良で導いた別次元 アストン マーティンDBS770アルティメットへ試乗 DB12への期待 後編

公開 : 2023.05.20 08:26

DB11をベースにしたDBSの最終仕様となる、アルティメットへ英国編集部が試乗。DB12への期待が大きく膨らむと高く評価します。

ダンパーの減衰力を調整 ボディ剛性を向上

アストン マーティンDBS770アルティメットの目玉といえる、肝心のシャシーだが、特筆する新アイテムは得ていない。細かなアップデートが施されたに過ぎないようだ。

サスペンション・スプリングは、従来のDBSスーパーレッジェーラと同じ。ダンパーの減衰力は、より引き締まった姿勢制御を目的に調整を受けた。実際、垂直方向のボディの動きは明確にタイトになりつつ、乗り心地のしなやかさも高められている。

アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)
アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)

シャシーに漂っていた、緩さ脆さが完全に排除されたといっていい。1770kgという軽くない車重を高速域で完璧に制御しつつ、市街地で出くわす舗装の剥がれた穴を見事にいなす。

シャシー剛性の向上も、能力の拡張を実現させた要素だろう。クロスブレースが新設計され、エンジン下部に渡されるクロスメンバーも強化。フロントの剛性は25%も高められている。リア側も、パネル類の技術的な改良で改善されたという。

そのおかげで、ダンパーがより緻密に仕事をこなせるようになり、コーナリング時の挙動で特に成果が表れている。DBSスーパーレッジェーラでは、ステアリングホイールを操作してから、ノーズが反応するまでに極めて僅かな遅れが存在していたのだ。

DBS770アルティメットでは、それが一掃されている。ステアリングコラムから、ラバー製のダンパーを省いたことも相乗しているだろう。ステアリングホイールへ伝わる感触や精度を高めつつ、路面からの衝撃はしっかり遮断されている。

増強されたパワートレインで驚異的な進化

アストン マーティンの技術責任者、サイモン・ニュートン氏の話では、コーナリング性能の向上は、ダンパーのチューニングによるところが大きいようではある。しかし、それ以外のブラッシュアップも、滑らかで一貫したマナーに反映しているはず。

そして、精度としなやかさを増したシャシーが、増強されたパワートレインと組み合わされ、驚異的な進化へ帰着している。5.2L V12ツインターボエンジンは、スロットルマッピングとトルク特性が慎重に練られたという。

アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)
アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)

DBS770アルティメットでは、1速から4速で4000rpm以下にある場合、だらしないホイールスピンを招かないギリギリのトルクを発揮するよう、制御が加えられる。不自然さを生む抑制にも思えるが、実際はより自由に右足を動かすことを許している。

770ps、91.63kg-mを発揮するスーパー・グランドツアラーらしく、幅が305もあるピレリ・タイヤを滑らせ、オーバーステアへ持ち込むことも容易い。リアアクスルのリミテッドスリップ・デフは、標準から手は加えられていないそうだ。

2018年に登場したDB11以来、最も心地良い乗り心地と操縦性に抱かれながら、V型12気筒エンジンのパワーを寛大に解き放つことができる。電子アシストをオフにしても、予期せぬカウンターステアでのリカバリーに慌てる場面はほぼないと思う。

DBS770アルティメットの操縦性は、調整しろが広く懐が深い。多くの名車と同様に、ドライバーの能力へ不足なく応えてくれる。その点で、トヨタGR86とも通じるといえるだろう。

記事に関わった人々

  • リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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