【グランプリレーサーから4シーターへ転身】マセラティ・ティーポ26 後編

公開 : 2020.07.05 16:50  更新 : 2020.12.08 11:04

3年を掛けた入念なレストア

歴史的なマセラティ・マシンのレストア経験を活かし、4シーターのティーポ26も見事に仕上げられた。「愛好家の間では、ハートレー兄弟は一匹狼的な雰囲気がありました」 と振り返る、ショーン・ダナハー。

「1970年代後半のマセラティ・オーナーズクラブイベントでは、アシュビー城周辺でティーポ26に乗せてもらったことがあります。知っている限り、戦前のマセラティで一番民主化されたマシンでした。ユーザーフレンドリーな設定と、木材と合皮製のボディのおかげでしょう」

マセラティ・ティーポ26(1930年)
マセラティ・ティーポ26(1930年)

その助手席体験から40年後、マセラティはオークションを経てショーン・ダナハーのワークショップへやって来たのだ。アイリッシュ・グランプリ仕様に復元が終わったのは、2015年だった。

ボディは別の工房で木製フレームを修復。レキシンと呼ばれる合皮が張り直された。ダナハーは、特徴的なスカットルとフロントガラスの再制作に取り組んだ。仕上がれば、失われたフードの再現も可能となる。

「写真も図面もない、難しい仕事でした。今はヒンジ付きで、きれいに収納できます」 リアシートは手が加えられ、快適性を高められている。足元の空間も広げられた。

ダナハーは、続いてシャシーを再塗装。エプロンを作り直し、ハートフォード・ダンパーを取り付けた。フェンダーステーやラジエター、ヘッドライト・サポートはオリジナルへ戻してある。

ロングシャシーのティーポ26は、メカニズム面でも入念なリビルトが施してある。新しいオーナーは、運転を楽しみたいと要望していたからだ。

最も興奮を誘うマセラティ製直列8気筒

エギゾーストシステムは、ブルックランズ・スタイルのフィッシュテールで新調。オリジナルは保存してある。一通り完成するとダナハーは試乗をし、シャシー番号2518の細部を詰めた。

「シャシーが長いので、グランプリレーサーより乗り心地も良く、直進安定性も増しています。わずかに増えた車重も、安定性に影響しています。ステアリングレシオは高く、低速での操舵はかなり力がいります」

マセラティ・ティーポ26(1930年)
マセラティ・ティーポ26(1930年)

「ケーブル式のブレーキは必要なだけ効きますが、当時のブガッティと同じくらいですね。ギアのレシオ幅が広く、フライホイールも重く、変速のタイミングには少し気を使います。でも、トランスミッション自体は頑丈です」

ダナハーにとって、この当時のマセラティ製直列8気筒は、最も興奮を誘うユニットの1つ。「ウェーバー・キャブレターに戻してあります。アイドリング領域から少し上にフラットスポットがありますが、中回転域以上のサウンドには惚れぼれしますよ」

「最高速度の168km/hまで、実際に到達できます。ややデチューンしてあり、最高出力は4500rpmで147psほど。車重は1016kgくらいあり、サーキットでは軽量なフレイザー・ナッシュとは競えません」

「しかし、風光明媚なスコットランドのウイスキー蒸留所を巡るマシンとしては、素晴らしい高速グランドツアラーになるでしょう」 筆者がもしマセラティ・ティーポ26スポーツのオーナーになれたのなら、アイルランドへ持ち込み、フェニックス公園のコースを巡るだろう。

それから、アイルランド西側のワイルド・アトランティック・ウェイで、島中をドライブする。美しい海岸線を眺めながら。

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