「ワイスピ」きっかけの熱いJDM(1) NYの違法ストリートレース 決め手は入手の簡単さとタルガトップ

公開 : 2025.06.08 17:45

映画「ワイルド・スピード」シリーズで、カルト的な熱狂を巻き起こした日本車 遥かに高出力へ耐える2JZ オーバースペックなRB26DETT 高回転型のF20C UK編集部が象徴的3台を振り返る

カルト的な熱狂を巻き起こした日本車

俳優のヴィン・ディーゼル氏が演じた屈強な男、ドミニク・トレット。彼が駆った1970年式のダッジ・チャージャーは、大ヒット映画シリーズ「ファスト&フュリオス(ワイルド・スピード)」で、最も有名なクルマといえるだろう。

しかし、この映画で本当にスポットライトが向けられたのは、改造された1990年代前後の日本車。R33世代の日産スカイライン GT-RホンダS2000、そしてA80型トヨタスープラの速さは、カルト的な熱狂を巻き起こした。

トヨタ・スープラ 3.0i ターボ(A80型/1993~2002年/海外仕様)
トヨタ・スープラ 3.0i ターボ(A80型/1993~2002年/海外仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

この物語が生まれるきっかけとなったのは、アメリカのエンターテイメント雑誌、ヴァイブ誌へ1998年に掲載された記事。ニューヨークで広まっていた、違法ストリートレースに迫った「レーサーX」だ。

人種のるつぼといえる大都市の、複層的な側面が描かれていた。ハドソン・ハイウェイを突っ走っていたのは、フォードマスタングシボレーカマロではなかった。

日本製スポーツカーの秘めた能力

それ以前のアメリカでは、日本車は食料品を買いに行く足のような存在に過ぎなかった。一般的には、まだ輸入車としてのイメージが強く、差別的な用語の「ライスバーナー」という表現が雑誌に平然と刷られるような時代でもあった。

だがヴァイブ誌の記者、ケネス・リー氏が目撃した日本車の姿はまったく違っていた。派手に改造された日産300ZX(フェアレディZ)や、三菱スタリオンに加えて、ターボ化されたホンダ・シビックたちが、0-400m加速を12秒以下でこなしていた。

ホンダS2000 (1999~2009年/海外仕様)
ホンダS2000 (1999~2009年/海外仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

「ワイルド・スピード」シリーズ最初の2作で、技術アドバイザーと車両コーディネーターを務めたのが、クレイグ・リーバーマン氏。彼もスープラに魅了されており、日本車の秘めた能力を理解していた。

映画として導かれたアイデアは、三菱エクリプスが破壊された事件を、潜入捜査官のブライアン・オコナー(故ポール・ウォーカー氏)が改造されたスープラで追うもの。実は、リーバーマンの愛車が実際に使われている。

入手のしやすさとタルガトップが決め手

三菱3000GT(GTO)も、ブライアンのクルマとして検討されたとか。だが安価な自然吸気版があり、その頃は入手しやすく、タルガトップが撮影に好適だという理由でスープラに落ち着いた。この結果が、その後の価格高騰をもたらしたことは間違いない。

劇中の冒頭で、スープラは走り込まれた状態で登場する。レースで活躍してきた過去を、示す設定といえた。

日産スカイライン GT-R (R33型/1995~1998年/並行輸入仕様)
日産スカイライン GT-R (R33型/1995~1998年/並行輸入仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

ドミニクと協力し、ブライアンはチューニング。ゼロヨンを10秒以下で走る性能に仕上げ、借金を返済する。派手なレースシーンは1番の見ものだが、警察の監視対象となった若者たちとの信頼関係の深まりが、ストーリーの核として描かれた。

ブライアンのスープラと、ドミニクのチャージャーの直接対決は引き分け。日本製のチューニング・スポーツカーは、アメリカの剛腕マッスルカーに劣らない速さを持つことを、世界中に知らしめることとなった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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