【ロータス・エミーラ同乗試乗】前編 ロータスらしさの番人と同乗 年販目標4500台への秘策を訊く

公開 : 2022.01.22 20:25  更新 : 2022.02.02 00:15

ユーザーフレンドリーな乗降性

わたしのように、エミーラの左側のシートへ乗り込んでみれば、すぐに気づくだろう。足を持ち上げて、広いフットウェルに滑り込ませるのが容易なことに。サイドシルは今や驚くほど低く、ドアピラーに邪魔されることもなくなっている。このクルマのオールアルミシャシーは、押し出し材をリベットと接着剤で組み上げたタブを用いる点こそエリーゼやエキシージ、そして多少の関連があるエヴォーラと同様ながら、乗降性はまったくの別物となっている。

カーショウによれば、これまでには望めなかった乗り込みやすさは、このクルマが全体的に見せるユーザーフレンドリーな性格の最たるものだという。また彼は、エヴォーラとの関係性について、新型車の足枷になるほど近くはないと念を押す。トレッドはより広く、ステアリングはコラムもラックも新設計。サスペンションのアップライトも、サブフレームやハードポイントも、すべて刷新された。もちろん、サスペンションのレートや、ほとんどのハードウェアも新しくなっている。

エミーラのインテリアは、これまでのロータスになかったような高いクオリティと、先進的なアイテムを装備している。
エミーラのインテリアは、これまでのロータスになかったような高いクオリティと、先進的なアイテムを装備している。    Max Edleston

トレッドを広げたのはなぜか。それには、総合的な車体バランスが関係している。「エヴォーラの重量配分はいい線いってましたが、重心高を下げたかったので、そのために広く作ろうと決めました」とカーショウ。

「これによって、コーナーリングでのロールは少なくなります。そのため、スプリングレートを落として、よりしなやかにすることも可能になりました。さらに、スタビライザーも必死に新設計しています。フリクションを減らしたことで素早く動くようになったので、バーの径を細くでき、それがまた乗り心地をよくする一因となりました。当然ながら、設計には広範囲にCAE、つまりコンピューター支援エンジニアリングを使っていますが、現物でのテストに代わるものはありません」。

エミーラは全長が4.4mあり、ホイールベースはエヴォーラと同等なので、キャビンは身体にしっくりくるものの、比較的広めだ。シートの背後には、バッグを置けるほどのスペースまである。ディスプレイを傾けて設置できる余地もあるので、ダッシュボードを低くすることができる。さらに、サイドシルに合わせて低く設置されたドアは、前端が削られているので、視認性が改善されている。

室内から見ると、そうしたもろもろがいかにみごとな成果を上げたかがわかる。路上でのエミーラはじつにコンパクトに感じられて、走り出すと、助手席に座っていても、位置決めしやすいことがうかがえる。本格スーパーカーがサイズ的には大きく上回っているわけでもないのに、視界はお粗末で運転するのが恐ろしくなるのとは対照的だ。

われわれは、インテリアのデザイン要素についても意見を交わした。プロトタイプの段階でも、エミーラのそれは今までのロータスよりハイクオリティだ。ラッセル・カー麾下のチームがここに込めた洗練性は、トリム専用のサプライヤーに発注していた以前よりうまく形にできているし、マテリアルのグレードも高い。

ふれこみによれば、大型の中央ディスプレイはコネクティビティと先進的なインフォテインメントに注力した新機種だというが、カーショウに言わせれば、それにも増して重要なのはドライバー重視の設計。たとえばベンチレーションの操作は、ノブ式を堅持した。また、ジェット戦闘機風の赤い跳ね上げ式カバーを備えたスターターボタンもいい感じだ。

シフトレバーの位置が、ステアリングリムから手のひらひとつの範囲内に収まることも、カーショウは実際に実演して見せてくれた。これも、チャップマンの御世から続くロータスの伝統だ。「コリンはこれを、60年代のグランプリマシン、ロータス25でやったんです。ステアリングホイールからすぐに手が届く場所にあれば、ドライバーがレバーを探すのに気を取られなくて済みますから」。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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