シルバーアローの幕開け メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー 復刻版1932年式を体験 後編

公開 : 2023.08.12 07:06

実戦で結果を残した初めての流線型ボディ

ファイナルラップで、マンフレートは作戦通りアタック。バックストレートでルドルフを一気に追い越すと、最終コーナーでもリードを死守し、メインストレートをフル加速。3.6秒という僅差で優勝を掴んだ。

アルファ・ロメオは2位で、ブガッティ・タイプ51が3分半遅れの3位へ入賞。ノーマルボディのメルセデス・ベンツSSKLは、4位でフィニッシュした。16台中11台がリタイアしており、レースの過酷さを物語っている。

メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー(1932年/復元版)
メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー(1932年/復元版)

SSKL ストリームライナーは、294.4kmを約1時間半で完走。平均スピードは194km/hに達した。4位で完走したノーマルボディのSSKLより平均速度は約10km/h高く、空気力学の重要性を証明したといえる。

この戦いを経て、プライベートレーサーのマンフレートの知名度は一気に上昇。シルバーアローという呼称も、一般的なものになった。

このSSKL ストリームライナーは、空気力学へ真剣に取り組んだ、初めてのレーシングカーではない。メルセデス・ベンツも、1909年のブリッツェン・ベンツなどに取り組んでいる。それでも、実戦で結果を残した初めての例といえる。

ひるがえって、2019年に復元された貴重なクルマを運転させてもらう。マンフレートが、筆者の倍近い速さでアヴス・サーキットを周回したという事実が、にわかには信じがたい。

ロッド操作のドラムブレーキは、確かにブレーキシューと繋がっている。ところが目一杯力を込めても、車重の軽くないSSKLが明確に減速する様子はない。

ブレーキが効かない事実を忘れる咆哮

ステアリングは驚くほどダイレクト。ドライバーの視界のなかで、上下に動くフロントタイヤが向きを変え、物理の法則と反するような勢いで素早く向きを変えていく。

トランスミッションには、ギアの回転数を調整してくれるシンクロが備わらず、ギアを傷めないようにダブルクラッチが不可欠。ただし低回転域から粘り強く、今回のテストコースではシフトダウンに迫られることはなかった。

メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー(1932年/復元版)
メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー(1932年/復元版)

7.1L直列6気筒エンジンは3600rpm付近まで引っ張れるものの、最大トルクが生み出されるのは1900rpm前後で、気張らなくても不満なく加速する。ボディサイズは小さくないが、運転自体はさほど難しくない。

ペダル・レイアウトは現在と異なり、中央がアクセル。力を込めると、ルーツ式スーパーチャージャーが回転数を高め、自然吸気ユニットの60ps増しとなる、300psの最高出力を放とうとする。

加速の最中、中毒性のある咆哮が一帯を支配する。ブレーキがまともに効かない、という事実を忘れそうになる。マンフレートは、どうやってスピードを操ったのだろう。6ポッド・キャリパー級の力を生み出す、凄まじい筋力の持ち主だったのだろうか。

その後、自動車と空気力学が密接な関係になったことはご存知の通り。ラインハルトとマンフレートが生み出した、SSKL ストリームライナーの重要性は間違いないだろう。

斬新なアルミボディの形状だけではない。現在まで続くシルバーアローという呼び名も、生み出したのだ。

執筆:Kyle Fortune(カイル・フォーチュン)
画像・協力:メルセデス・ベンツ・クラシック

記事に関わった人々

  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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