戦後の力強い野心の表れ メルセデス・ベンツ170 S 秘密情報部員が乗ったカブリオレ(2)

公開 : 2023.10.21 17:46

機械的な苦労をドライバーへ伝えない

サイドバルブの1767cc直列4気筒エンジンが静かに燃焼音を響かせ、悠々とアスファルトを進んでいく。シャシーは強固で、4速マニュアルのトランスミッションは、ゴムブッシュを介してマウントされている。機械的な苦労を、ドライバーへは一切伝えない。

すべてのギアに、変速時に回転を合わせるシンクロメッシュが備わり、長いレバーを介して滑らかにシフトアップできる。ホワイトのステアリングホイールは大径で、想像以上に軽く回せる。

メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949〜1951年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949〜1951年/欧州仕様)

内装にはウッドトリムが惜しみなく用いられ、クロームメッキの装飾と見事に調和している。グローブボックスにはロック機能が備わり、ダッシュボード中央にはシーメンス社製のラジオが鎮座する。

贅沢とまではいえないものの、装備は当時としては充実している。空間にはゆとりがある。通常の170よりホイールベースが伸ばされ、全幅も広げられたおかげで、居心地がいい。ボディ後方に載るスペアタイヤは2本。実用性も忘れていない。

ソフトトップを折り畳むと、頭上には大空が広がるが、後方視界は遮られる。静かにたくましく回転するエンジンは、意欲的な回頭性を楽しむのに不満ない加速を生み出す。情報では、130km/hでの走行も厭わないとか。最高出力は53psだが、かなり活発だ。

メルセデスの力強い野心が表れている

カーブへ突っ込むと、当時のメルセデス・ベンツの悪癖といえた、スイングアクスルによる跳ねるような挙動が現れる。だが、ステアリングホイールは正確に反応する。乾燥した路面状態にある限り、軽くない車重を望んだとおりに操れる。

優雅な雰囲気のオープン・グランドツアラーとして、170 S カブリオレBは滑らかに走らせるのが理想的。しなやかな乗り心地と不足ないパワーに浸りながら、余裕ある自動車移動を満喫できる。

メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949〜1951年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949〜1951年/欧州仕様)

少し控えめかもしれないが、メルセデス・ベンツが真剣に目指したものが達成されている。より大きく優れたクルマを作ろうという、力強い野心が表れているように感じた。

協力:クラシック・クローム社、カローラ・ダイムラー社

メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949〜1951年/欧州仕様)のスペック

価格:1万2850マルク(新車時)/12万5000ポンド(約2262万円)以下(現在)
生産数:2433台
全長:4455mm
全幅:1684mm
全高:1633mm
最高速度:120km/h(170 S サルーン)
0-97km/h加速:29.0秒(170 S サルーン)
燃費:8.4km/L(170 S サルーン)
CO2排出量:−g/km
車両重量:1217kg(170 S サルーン)
パワートレイン:直列4気筒1767cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:52ps/4000rpm
最大トルク:11.3kg-m/1800rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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