ポルシェ3台のPHV

公開 : 2014.10.28 23:50  更新 : 2021.10.11 09:11

実際に、カイエンS E-ハイブリッドのカスタマーとなったら、自分のライフ・スタイルはどのように変化するのだろうか。それはドライブを始める前から、簡単にイメージすることができる。自宅からのスタートは、もちろんEパワー・モード。これならばたとえば休日の早朝でも、隣人に気兼ねすることなくドライブをスタートさせることができる。Eパワー・モードでのフルチャージからの航続距離は、条件によって18〜36kmと幅はあるが、実用性は相当に高い。アクセル・ペダルをさらに踏み込み、一瞬圧力を感じるポイントを超えると、エンジンは瞬時にスタートし、エレクトリック・モーターとともにさらなるパワーを提供してくれるのだが、あえてそのようなアクションを起こそうとは思わないのは、Eパワー・モードでの走りに一切のストレスを感じないことが直接の理由か。メーター・パネル内のインジケーターには、エネルギー・フローとともに、Eパワー・モードでの残りの走行可能距離が表示されているが、ナビゲーション・システムに目的地を設定していれば、その残距離との比較で、自分はEパワー・モードのまま目的地に到着できるのか、あるいはどこかでEチャージ・モードを使用した再充電を行う必要があるのかを判断できる。

Eパワー・モードでのカイエンS E-ハイブリッドの走りは、エレクトリック・モーターからのわずかなノイズが耳に届くことを除けば、きわめて快適なフィーリングに終始する。さらにアクセルを踏み込み、エンジンがスタートした瞬間も、8速ATのシフト・ダウンが伴わなければ、あえて意識していなければそれを判断するのは難しい。静寂なキャビンでむしろ気になるのは、タイヤからのロード・ノイズや、わずかなボディ・ノイズといったところだろうか。Eパワー・モードの最高速は125km/hであるから、市街地や郊外の一般道、あるいはアウトバーン上でも、いわゆるゼロ・エミッション走行を続けることは容易だ。自宅からの距離によっては、一度もエンジンが始動することなく目的地に到着することも可能だろう。その目的地があるいはオフィスであったのならば、仕事中にここで再充電を行えば、自宅への帰路も再びEパワー・モードのみで走行できることになる。

Eパワー・モードでの走行可能距離を超える場合には、どこで効率的にバッテリーの再充電を行うのかがキー・ポイントになる。もちろん完全なクルマ任せでそれを行うのも可能だが、例えばアウトバーンから一般道へと再び降りる前に、Eチャージ・モードで再充電を行うのもベストなチョイスといえるのだろう。現在の段階では、Eチャージモードをどこで活用し、そしてどこで再びEパワー・モードによるゼロ・エミッション走行へと切り替えるのかは、ドライバー自身の判断ということになるが、将来的にはナビゲーション・システムからの情報とリンクして、自動的に最適なポイントをクルマ自身が判断するような機能を与えることも考えられそうだ。それが実現すれば、ポルシェのPHVは、カスタマーにとってさらに魅力的なモデルとなるに違いない。

ポルシェによれば、カイエンをPHV化するために必要となった重量増は約270kg。S E-ハイブリッドの走りからは、そのハンデを感じることはほとんどなかった。前でも触れたとおり、バッテリーはラゲッジ・ルームのフロア下に収納されるから、実用性を大きく損なっていないのも、このモデルの大きな魅力といえる。乗り心地やコーナリング時の安定感も、さすがはポルシェの作といった印象。乗り心地にはプレミアムSUVとしての落ち着きと高級感が演出され、またコーナリング時には、ナチュラルな動きに終始するロールと、4WDという駆動方式が生み出すトラクション性能の高さに圧倒される。エネルギー回生を行うブレーキも、そのフィーリングに大きな違和感はない。きわめて自然な、言葉を変えるのならば、ほかのパワー・ユニットを持つカイエンと変わらないフットワークが、このS E-ハイブリッドにも与えられていると報告してもよいだろう。

パナメーラS E-ハイブリッド

カイエンに続いて、次はパナメーラのS E-ハイブリッドをドライブする。パワー・ユニットの構成は、このパナメーラもカイエンも共通。大きな違いは、前でも触れた駆動方式で、パナメーラの場合にはオーソドックスなRWDが選択されている。車両重量での比較では、カイエンのS E-ハイブリッドの2350kgに対して、パナメーラのS E-ハイブリッドは2095kg。ボディーサイズは、全幅と全高ではコンパクトだが、全長は逆に4855㎜に対しての5015㎜と、カイエンより大きな数字となるのがパナメーラだ。これらの数字から想像するに、同じPHVモデルでも、よりスポーティーな性格を持つのはパナメーラの方というのが自然な考えなのだが、現実は必ずしもそうではない。

ワインディングで、そしてアウトバーン上で感じた、カイエンの圧倒的なスタビリティは、やはり4WDという駆動方式によって生み出されたものだったようだ。後輪で駆動力を生み出し、そして前輪は操舵のためにという考えは、本来は走りを魅力的なものとするには最も自然な選択といえるのだが、オンロードでのコンディションは常に一定ではない。カイエンでの圧倒的なスタビリティを味わった後には、RWDのパナメーラS E-ハイブリッドの走りには、やや物足りなさが残ったというのが正直な感想だ。もちろんEパワー・モードによるEV走行や、そこからエンジンがスタートした後の、パラレル式ハイブリッドとしての自然なパワー・ユニットの一連の動きには、一切の不満を感じることはなかった。問題はやはりフットワークのチューニングにあり、と考えるべきだろう。リア・アクスルのさらに後方にバッテリーを搭載したことによる、ややリア寄りの設定となった重量配分の影響も、パナメーラではより直接的に表れているような印象を受けた。

記事に関わった人々

  • 山崎元裕

    Motohiro Yamazaki

    1963年生まれ。青山学院大学卒。自動車雑誌編集部を経て、モータージャーナリストとして独立。「スーパーカー大王」の異名を持つ。フツーのモータージャーナリストとして試乗記事を多く自動車雑誌、自動車ウェブ媒体に寄稿する。特にスーパーカーに関する記事は得意。

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