トヨタ、FCEV開発の軸足を商用車へ 「成功とはいえない」の真意は?

公開 : 2023.10.28 10:45  更新 : 2023.10.29 16:45

・トヨタは水素燃料電池車の開発を商用車に集中させる。
・「ミライは成功とはいえない」と中嶋副社長、だが乗用車も諦めず。
・全固体電池や次世代EVでも「Fun to Drive」実現へ。

FCEVの技術を磨き、乗用車も「諦めない」 

トヨタは、FCEV(水素燃料電池車)技術開発の軸足を乗用車から商用車に移す。中嶋裕樹副社長兼CTOが、25日開幕のジャパン・モビリティショー2023で新たな方針について説明した。

トヨタは、乗用車のミライを筆頭にFCEV技術のパイオニアとして長年取り組んできたが、水素ステーションのネットワーク整備が困難なこともあり、FCEVの普及には至っていない。

トヨタは2014年に初代ミライを投入し、2020年に第2世代(画像)を発売した。
トヨタは2014年に初代ミライを投入し、2020年に第2世代(画像)を発売した。    AUTOCAR

「ミライに挑戦したが、成功とはいえない」と中嶋副社長は言う。「水素ステーションは非常に少なく、見分けるのも難しい」

現在では乗用車よりも、商用車の方が水素に適していると考えられている。商用車は、BEVのようにバッテリーを動力源とするには不向き(サイズと重量面で不利)という理由だけでなく、水素ステーションのネットワークを構築しやすいという一面もある。

中嶋副社長は「中型トラックの場合、A to Bの移動が中心なので、(水素ネットワークを)導入するのは簡単です。膨大な数のトラックがA地点からB地点へ移動するので、より安定したステーション運営ができます。商用車は、水素の利用を進める上で最も重要な分野です」と述べた。

その一方で、中嶋副社長は「(水素)乗用車を諦めたくはない」とし、さまざまなタイプのクルマに適用し、その魅力を広げるために、燃料電池スタックやタンクなどのコンポーネントを小型化する方法を検討していると述べた。

バッテリーEVでも「Fun to Drive」実現へ

ジャパン・モビリティショーでは、トヨタが2027~2028年に導入予定の全固体電池に関する説明もなされた。全固体電池は、BEVにとって画期的な技術で、エネルギー密度を向上させ、小型化、軽量化、低コスト化などさまざまな利点があるとされている。

トヨタは石油大手の出光と協業し、全固体電池を共同で開発しているが、中嶋副社長によると現段階では非常に高価で、クルマへの使用は当初は「高性能車」か「高性能充電」車に限られるという。

トヨタは乗用車向けに水素ステーションを展開することは難しいと認める。
トヨタは乗用車向けに水素ステーションを展開することは難しいと認める。    AUTOCAR

一方、トヨタは2026年から、高度にモジュール化された新プラットフォームをベースとする次世代EVに、最新のリチウムイオンバッテリー技術を導入する予定だ。

これについて中嶋副社長は、eアクスルやHVACシステム、バッテリーパック(高さ100mmまで薄型化)などのコンポーネントを極力小型化し、レクサスのエントリーモデルやトヨタのスポーツカーなど、幅広いモデルに搭載できるようにするという理念のもとに作られたものだと説明。

この新しい技術を使ったスポーツカー・コンセプトの1つが、ジャパン・モビリティショーで公開された「FT-Se」だ。

「可能な限り、『Fun to Drive』のイメージを実現したい」と中嶋副社長。

トヨタはEV向けにマニュアル・トランスミッション(MT)を模した機能を開発しているが、中嶋副社長は楽しいEVの定番になるだろうとし、「単に高トルク、高出力であればいいというのではなく、いかにして運転する楽しさを提供できるかが目標」と語った。

また、ソフトウェアの可能性については、さまざまなパフォーマンス・パッケージをダウンロードできるようになるという。レクサスLFAのパフォーマンスやトヨタGR86のステアリングフィールなどが例として挙げられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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