フェラーリ vs アストン マーティン リアシート付き812 スーパーファスト? プロサングエはDBX707を超えるか(2)

公開 : 2023.12.09 09:46

鮮やかで高精度 本物のフェラーリといえる

試乗コースには、処理力の差が如実に現れるコーナーがあった。左に弧を描く緩やかな登り坂で、外側へ負荷を掛けつつ加速する区間の路面が、細かく波打っている。

DBX707では、入力に耐えきれずリアアクスルがラインを乱し、スタビリティ・コントロールの警告灯が点滅。ボディには、明確な揺れが伝る。ところが、プロサングエでは何事もない。波打っている事実にすら気付かないほど。

レッドのフェラーリ・プロサングエと、グリーンのアストン マーティンDBX707
レッドのフェラーリ・プロサングエと、グリーンのアストン マーティンDBX707

この落ち着いた制御が、ステアリングとシャシーバランスを輝かせるベースを作る。特にステアリングの印象は、鮮やかで高精度。本物のフェラーリといっていい。僅かに反応が重く、スローではあるが。

優れたシャシーバランスが生む操縦性もまた、明らかにフェラーリ。2.2tある車重が軽く転じることはないものの、これまで不可能だと思えた、高水準なSUVとスーパーカーを両立させたといっても過言ではない。

8速デュアルクラッチATには低めのレシオが与えられ、8250rpmのレッドラインまで公道で回せるのも喜び。車高は高めで、4シーターの空間を備えていながら、ドライビング体験は重層的といえる。ブレーキペダルは、踏み初めでやや敏感なようだが。

サスペンションのフィーリングは、自然ではないかもしれない。魔法のような仕事には、透明性が多少犠牲になるのだろう。

だとしても、システムの完成度は奇跡的。DBX707は、優れたエアサスペンションで乗り心地と操縦性を高次元にまとめているが、プロサングエはそれを凌駕する。

マラネロの実力が発揮された正当なフェラーリ

ただし、大型SUVとして、実用面での評価は別。ランドローバーレンジローバーへ伍することを期待する人はいないと思うが、リアシートが付いた812 スーパーファストと考えても、間違いではないかもしれない。つまり、日常との親和性は高くない。

市街地では、扱いにくいと感じる場面が多いだろう。徐行速度でのアクセルレスポンスは褒めにくく、クリープ走行も若干安定しない。テールゲートを開くと荷室が現れるが、そこまで広いわけでもない。

アストン マーティンDBX707(英国仕様)
アストン マーティンDBX707(英国仕様)

DBX707も、お買い物へ好適とはいえないものの、遥かに容易に市街地へ紛れられる。洗練度は多少劣るかもしれないが、リラックスして運転できる。プロサングエほどの注目も集めないだろう。荷室はメルセデス・ベンツEクラス並に広い。リアシートも。

それでいて、今回のA712号線のような道では、負けないくらい最高に楽しい。お値段も、遥かに懐へ優しい。

とはいえ、AUTOCARとしてドライビング体験を評価するなら、新境地のプロサングエへ軍配が上がる。能力の幅が広い、マラネロの実力が遺憾なく発揮された、正当なフェラーリだといえる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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