英国バックヤードビルダー訪問記 テンペスト・オブ・イングランド編 後編

公開 : 2019.09.29 10:50

英国が誇るバックヤードビルダー文化の神髄に触れるべく、ウスターシャーにある3つのガレージを訪問しました。それぞれが個性溢れるクルマを創り出す真のエンスージァストたちであり、まさに英国自動車文化を支える存在でもあります。最初にご紹介するのはテンペストです。

古いものが好き ビールは遠慮

1980年頃の6気筒エンジンを積んだホンダCBXがタンクを外された状態で、作業が開始されるのを待っている。部分的に完成している一対のテンペストのシャシーとボディパーツが小屋の一角を占拠しているが、この混乱の中心にあるのは、それぞれが新たなオーナーとメンテナンスを待つ3台のテンペストだった。

わたしの驚きを見透かしたように、ジョーは工具の重みで湾曲している工具棚の脇を抜けて狭い木製階段を上ると、オイルが沁み込んだ大きな木製テーブルと、奇妙な1960年代製のキッチンレンジが占拠する部屋へと案内してくれた。

テンペスト・オブ・イングランド その1
テンペスト・オブ・イングランド その1

「古いものが好きなんです」と、嬉しそうにメイソンは話す。「この見事な古いキッチンは誰かが捨てたものですが、思わず持ち帰って来てしまいました」

ビールを勧められたが、まだ午前9時30分だったので、彼のテンペストのビジネスについて詳しく話しを聞くことにした。

テンペスト850と呼ばれるこの2シーターのロードスターは、1987年、TVR 350iのデザインを手掛けたジョン・ボックスと、同じようなモデルのティール・ブガッティのクリエーターであるイアン・フォスターにリライアントが製作を依頼したことで誕生している。

テンペストの権利 ジョーの手に

多くのパーツをリライアント・フォックスとキトンと共有するこのモデルでは、チューブラー式スチール製シャシーとガラス繊維強化樹脂製ボディが組み合わされ、高い信頼性とともに41psを発揮するリライアント製オールアルミ850cc 4気筒エンジンが搭載されていた。

しかし、最初のモデルが創り出された直後、リライアントは新型スポーツモデルのSS1に集中することにしたため、テンペストの権利はデザイナーのジョン・ボックスに与えられており、車両は85%が完成した状態で、新たにこのクルマのオーナーになったひとびとが取付けを行えるよう、残りの必要パーツとともに併せて出荷されていた。

テンペスト・オブ・イングランド その2
テンペスト・オブ・イングランド その2

2011年にジョーが取得するまで、テンペストの権利は多くのひとびとの手を渡り歩いている。

「50台のテンペストと、その派生モデルである小型バンのヴァンティークが生産されたと考えられています」と、彼は話す。

権利を手に入れて以降、ジョーはより広いレッグルームを確保するための設計変更や、フロントのディスクブレーキ化と電気点火の採用を行っている。

希少なロードスター 最高に魅力的

もし発見できれば、オリジナルのテンペストも6500ポンド(84万円)辺りから手に入れることが出来るが、ジョーはレストア済みの車両を8500ポンド(110万円)で販売している。

リライアント・フォックスかキトンが欲しければ(より低いギア比を備えシャシーに防錆処理が施されているフォックスのほうがお勧めだ)、1500ポンド(19万円)からキットモデルを購入することもできる。

テンペスト・オブ・イングランド その3
テンペスト・オブ・イングランド その3

これほど安価に、希少なロードスターモデルを手に入れることが出来るかも知れないという事実に興奮したわたしは、ほんの少しだけテンペストのステアリングを握らせて貰うことにした。

上り坂ではこの550kgのロードスターに41psのパワーは力不足に感じさせ、ギアシフトもやや節度が足りないように思われたが、慎重に扱えば十分な信頼性を見せてくれた。

さらに、軽い操舵感で正確な操作が可能なラック&ピニオン式ステアリングを持つこのクルマの小回り性能は、驚くべきレベルに達している。

決してすべてが素晴らしいわけではないが、最高に魅力的な1台であり、それこそがこのクルマの存在意義と言えるだろう。

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