「100万人の命を救った男」 横滑り防止装置の開発者をインタビュー

公開 : 2017.10.14 18:10

1989年、メルセデス・ベンツの若きエンジニアが凍りついた轍にはまり込んでいる間に思いついた「横滑り防止装置」は、現在100万人以上の命を救っています。ESPは、どのように生まれ、どのように育てられたのか。探ります。

もくじ

スタビリティ・コントロールが生まれたとき
1991年3月、未来への扉が開いた
物事は、思ったとおりに進まない
あの日、運命を変えた場所へ
ヴァーナー・モーン、何を思う?

スタビリティ・コントロールが生まれたとき

数えきれない命が、スタビリティ・コントロール(横滑り防止)装置によって救われている。

今ではコーナーにおけるハンドルの向きとタイヤのグリップ、そしてクルマの挙動を常に監視してくれるこの守護天使の存在は当然のように思われているが、一方で、シートベルトの誕生以来最大の道路交通安全における発明である。

しかし、この発明が偶然の産物であることを知る人は少ない。

1989年、メルセデス・ベンツの若きエンジニアであったフランク・ヴァーナー・モーンは、冬季テスト期間中にスウェーデン北部の凍結路でスリップしていた。側溝に座り込んで、近隣の町から呼ばれたレッカー車を待っている間、彼は突然の閃きを得たのだった。

当時発明されたばかりのABSが、ミリ秒単位でハンドルの角度とクルマのスリップアングルを計測している車載コンピュータとの対話で成り立っているのであれば、何ができるだろうか?

横滑りを防止するため、コーナーでエンジン出力を絞るとともに、必要に応じてブレーキを効かせるというのが、彼のアイデアであった。

同じ頃、ボッシュも同様のアイデアを温めていたが、ボッシュのシステムは緊急制動時のみ起動されるというものだった。一方、ヴァーナー・モーンのアイデアではシステムは常時起動。常に道路状況とクルマの挙動を監視している。

この微妙ではあるが、重要な差がヴァーナー・モーンのアイデアを今日の横滑り防止装置の基礎とすることになったのである。

シュトゥットガルトの本社へ一旦戻ったヴァーナー・モーンと彼のエンジニアチームは、自分達のアイデアを検証するためのプロトタイプ製作を許可された。

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